静けさがあるというか。

中々それを良しとする感覚を身に付けるのも長いことやらないとわからない。

若い間は結構派手なね、輝くテカテカと表面が光沢のある物を好きでしたし、よーやってたんですけど。年と共にランク上がっていこうと思うと、質感を上げてかないと。

色目の派手さを見せるんじゃなくて下仕事と言うか、良い素材を使ってそれにどれだけ隠し仕事入れてるって言うかね。

 

原料も天然素材を使えば使う程いいものができるんですよ。出汁も昆布とか鰹節とかちゃんと取って、良い素材を使うと、やっぱふくよかな味になるじゃないですか。

陶器も味の素みたいな原料一杯あるんですよ。これとこれ足したら良いよみたいな簡単なのが。植物の灰を使うと陶器がふくよかな深い色になるんでね。

何故陶器は灰で色がつくかと言うと土の中にガラスになる成分が微量に含まれてるんですよ。それを植物が栄養素として吸い上げるんですね。灰は温度が400~500度になるんですけど、焼くとガラスになる成分だけが凝縮されて残るんですよ。ガラスの溶ける温度が800とか1000度なので、一回仮焼で低い温度で焼いちゃうと、ガラスの成分だけが凝縮して残るんですよ。ガラスになる成分以外にも、ちょっとづつ違う不純物みたいな成分が入ってるんですよね。それが味で言うと苦味成分みたいになって、単純じゃないちょっとふくよかな味になるというんですかね。樫の木とか藁の灰とか、そういうのを使うと青が単純なパッとした青じゃなくて、緑と赤と茶色と黒と、何か色んなのが混ざった上での苦味が含まれたような青になるんです。

 

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そしたら灰にする元の物が変われば、また違う物が出来るってことですね

木の種類によっても全然特徴が違う。僕のこの釉薬のポイントは藁の灰なんですけどね。

萩焼とかは藁の灰使うんですけど、白くてもこもこもことした感じが藁の特徴なんですよ。

それも青磁に使うと白いもこもこプラス、この青がちょっと足されてるという雰囲気のね。あとはまあ土とか焼き方と色々テクニックがあって、それの総合的なもんです。

ポイントは藁ですね。藁の灰を使うと、目では見にくいけどルーペ当てると、細かい気泡の集合体なんですよ。

陶器の釉薬でそれが沢山あればある程、光が乱反射したり奥に光を通すというのもありますし、表面がちょっとザラザラザラと気泡の後で凹凸ができるんです。それでちょっと艶がざらついたような感じになって光沢感が少し抑えられるというか。窯戸でご飯を炊くような感じですね。泡がね。

 

手で触った感じではわからないですよね?

でも光にかざすと光の当たった感じで見えるんですよ。

 

光を当ててルーペをみてみると見えました。(木村さんがルーペを貸して下さいました。)

表面が0.01mm位のねブツブツがね。見えるんですよ。

 

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あります!あります!

ところがその藁を使うと天然素材なんで、不純物が沢山入ってるというのもあるんですけど、ロスが出るんです。ピンホールと言ってパッと穴が開くんですよね。見えてるのは気泡の後なんですけど、気泡が沢山出すぎてガスの穴があきよるんですよ。

 

穴があいてしまうということですか

ええそれがものすごく多いんですよ。湯呑とかお皿位やったら面積がちっちゃいから、穴があく確率は低いですけど、ちょっと大きくなると面積の比率からすると、ものすごい確率が高くなる。この大きさのやったら(直径30~40cm位の器)完品で取るのは奇跡的なもんで、100個焼いて1個取れるか取れないかなんです。一回穴あいてしまうと埋めてもう一度焼きなおしたりします。

 

そういうことできるんですか

テクニックとしてあるんです。ぐい呑やったら全然大丈夫なんです。これくらいの大きさやったら。

 

大きいほうが難しいんですね。形によっても難しいとかありますよね?

ひずみやすい、ひずみにくいちゅーのは。口元に折れてると、角があるとそこで締りがあるので、ひずみにくいんですよ。口元に折れてると角があると歪みにくいんですよ。こっちは締まりがないんで、ばらーんとなってるので、力の逃げるとこが無いんで、なんかの拍子でバランスが崩れると、1260度位になってきますから、温度が高いので、ちょっとした拍子にキュッと縮んだりとか、パッと裂けたりとか失敗はあるんです。鉢とか口のとこに段があるとそこで輪っかハメてるような感じになって、そこで締りがあるんで良いんです

 

焼いてて納得出来るというか、自分がこれやと言うのは今迄でどれ位あったんですか?

無いですよ。一個もそんなんは。

 

一個もですか?

窯でた瞬間から半年くらいはすごいな~と思うときはたまにあるんですよ。半年経ったらもう旧作でダメで。たまに良いなと思う、ちょっと鉄粉があったりして売りもんにならんやつを使ってるんですよ。この色は最高傑作やなと思って使ってるんですよ。けど半年一年位経つと常に新しい色をテストしてるんで、改善改善してるわけですよ。後の方が良い色が出てくるので、前のは見れないというか、見れないと思った瞬間に成長してるんでしょうけど、自分の中でね。常に前しか向いて無いから、前のやつは自分的にはちょっとね。

たまに「あっ30代のときちょっとマシな仕事してたんや」って思う時はあって、お客さんのとこで見せられたりとかね。棚の奥から自分の古いの出てきたりとかね。パッと見るとちょっとほっとする。若いときセンス良かったんや。

 

料理は食べて無くなるけど残りますもんね。自分の過程わかりますよね。

成長の過程ね。一番歴然なのが色もそうですけど、裏側の削り。ここはセンスの塊なんで。ここで作家さんの力量とか腕前のレベルとか全部出て来るところなんです。

 

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そんな考えて見て無かったわ。ただでも雑な人もおるなと位は思ってたけど

作り手も色んな考え持ってる人もいるので、ここに全然力を入れてない、美意識を思ってない人もいますけど、わかる人にはここを見たらわかるというかね。

お茶会行くとお茶を飲んでお道具拝見と言ってここを見るでしょ。

 

ああしますね

ここに名前が書いてあるので誰の作品かわかるってのもありますし、ここの仕事でその物が良い物か悪い物かと言うのが、だいたいわかってしまう。

 

鑑定団とかでも裏見てしはりますよね。そんなようなもんですよね。

中島誠之助さんとかやったらわかってしまうんでしょうね。

特にお抹茶茶碗はここの削りが命ですわ。

 

裏までは気にして無かったな

普通の人はわかんないですよ。長年作ってる者とかコレクションしてはる人とか、評論家の人とかじゃないとわからないですよ。

 

個展は春が多いんですね

夏向きの色じゃないですか私のって。秋とかってあんまり無くて、夏のちょっと手前3月か6月位ですかね。最近ピンクが結構やってるので、2月3月とかが多くなりましたけどね。だいたい3月から6月の間が一番多くて秋がないですね。

 

でもこういう色もあるのにね

その黄色やりだしたんが最近なんですよ。

 

なるほどね。そういう個展とかってあちこちでしてはりますけど、何かそいうルート的なのってあって声かかってくるんですか?

本で見て頂いたりとかネットとかもあるでしょうし、そういうとこでしょうね。自分からは売り込みとかよう行かへん性格なので、仕事がなかったらドキドキしますけどね。どっからもこーへんなと思って(笑)

 

やっぱり個展とか大きいですか?

今のとこ個展がないと生活していけないんで、年に2・3回あると安心なんですけどね。

 

年に2・3回でですか?

3回ですかね。4ヶ月に1回。それ位の間隔じゃないと品物が貯めれないので。

 

1回の個展でかなりの量作らはるんですよね

作るのは多い。出すのは100点100種類位、百貨店やったら100~150位でしょうか。

今年1月は連続で大きいとこあったんですよ。2ヶ月間隔しかなくて、死にましたよ僕。

 

寝ず?

寝ずとまでは行かなかったけど、プレッシャーがきつすぎて、福岡の大きい百貨店の大きい画廊があって、東京の三越という僕らの仕事の中では一番大きいステージなんで。日本橋の三越本店というと最高峰のとこなんで、プレッシャーがきつくてきつくて、何か未だにグテーっとしてます。日本橋三越の画廊で展覧会すると言うのが最終の夢ですね。陶芸家で目標はそこに置いてはる人は結構多いと思うんですけどね。こないだやったのは画廊じゃなくて、前のサロンみたいなとこなんですけどね。

 

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