フルーツ農家のやり甲斐は人との出会い?

 

-小林さんがぶどう作りに、ものすごい情熱を持ってるのは段々分かってきました。ズバリ魅力はなんですか。

 

やっぱりお客さんに美味しいって言われるのが楽しくてやってるのかな。親戚に配った時「やっぱお前のとこが一番だな」って言われた時は頑張って良かったって思う。

 

-ぶどう作りに限らず、仕事をする上で評価されるのはやりがいを感じる瞬間ですよね。

 

観光客向けにぶどう狩りもやってるから、目の前で喜んでくれるのも嬉しい。毎年シーズンになると必ず来てくれるお客さんもいるんだよ。夏は働き詰めになることも多いけど、やり甲斐があるから苦じゃないな。

 

-完全に仕事人の台詞ですね。プライベートの時間が持てないのはストレスになりそうなのに。

 

農家は夜に作業できないから、仕事終われば遊びに行くよ。飲みに歩いたり、合コン行ったりもする。趣味のゴルフも繁忙期じゃなければ行くし。

 

-嘘ですよね。だって彼女います?

 

いない。

 

-そんなに遊んでるなら彼女いないのはおかしいですよ。言っておきますけど、ぶどうは女性にカウントされませんから。

 

うるさい(笑)チャンスがないわけじゃないよ。合コン以外にも、やっぱり農家って跡取りが必要で、継ぐ男手がないところから「うちの娘はどうだ」って話も結構出てくる。

 

-じゃあブドウのはね出し(傷んだりして商品にならない果物を選り分けること)をするように女性も選び放題ですか!

 

人聞きが悪いな…でも出会いが多いのは確かだね。観光で来た女の子のグループと仲良くなって、一緒に写真撮ってくださいってお願いされたこともあったな。

 

-モテモテですね。業務に集中してくださいよ。何を狩ってるんですかあなたは。

 

これも仕事!農家も人とのコミュニケーションが大事なの。お客さんに喜んでぶどう狩りしてもらうために、色々と丁寧に案内していたら一緒に写真を、って感じ。

 

-農家って黙々と作業する、作物以外と対話しない人種みたいなイメージがありますけど。

 

それじゃ商売にならないよ。農協へ果物を納品する時も他の農家の人と話して情報を交換したり、ちょっと手伝ったり。農家同士で物々交換もするし、飲みにだって行くしさ。

 

-そう考えると、ニートやフリーターやってる人に安易に農業勧める人は盛大な勘違いをしている、ってことですか。

 

農業は他の会社の業務と違って、全部の工程を自分が手がける職人みたいなところがあるけど、人との付き合いは大事。偏屈な人が多いのも事実だけど。

 

-農家がモテる、っていうよりコミュニケーション能力に長ける奴がモテる、ってことですね。一般社会と同じか。

 

同じだね。

 

画像5
農園で開かれた婚活イベント。ぶどうが恋の架け橋になる時代、か。

 

失われていくフルーツ農家の技術。そしてこれから。

 

(筆者注:農林水産省の調べによれば平成22年には全国で252.8万戸営まれていた農家は、平成27年には215.3万戸。なんと37.5万戸もの農家が廃業となっているのです。フルーツ王国と呼ばれる山梨とて例外ではありません。反面、49歳以下の全国新規就農者の数は平成25年が17.9万人だったのに対し、平成26年には21.9万人と増加傾向にあります。)

 

-冬って基本なにしてるんですか。

 

ぶどうの棚作りかな。今から来年に向けての準備を始めてるよ。しかもうちの社長はぶどう棚作りの名人だから、よその農園から頼まれて作ったりしてる。それを手伝うんだけど、まぁ怒られる怒られる。

 

-8年やっても難しいものなんですね。

 

結局冬の間しかやらない作業だから、これどうやるんだっけ、って振り出しに戻る。で、社長に聞いて怒られながら作業していくうちに感覚を取り戻す、みたいな。

 

-そういうのも、ハイテク技術とかで機械化できればいいですね。

 

技術を持っている人は高齢な事が多いし、今の代で廃業しなきゃならないとこも珍しくないよ。若い人が入ってきても、さっき言ったみたいに根性なければ続けられない。朝に初出勤して昼休憩には居なくなった人もいたよ。

 

-大変だ。これ読んだらますます人が来なくなるんじゃないですか。

 

うちの会社の先輩はお世辞にもガタイがいいとは言えないけど、俺と同じくらい長く続けてるよ。すぐ辞めちゃった奴は若くて見た目も体育会系で、見るからに力仕事出来そうだったし。やっぱり根性だね。

 

-昭和の体育教師並みの根性押しですが、これから先フルーツ農家が生き残っていくのに根性だけでは乗り切れないですよね。

 

そうだね。それこそ大手の企業が参入してきて大々的に土地を買い取る、ビジネス的な農業形態がいいんじゃないかな。農園地帯の中に、何年も手をつけてない持て余した土地がたくさんあるから。

 

-採算取れるんですか。儲かるビジョンが見えないんですが。

 

桃栗三年柿八年、っていう通り果物は野菜と違って植えたシーズンに収穫できないのがネックだからな。いざ始めたはいいけど、最初の一年どうやって食うんだって話。今は県からの助成金があったりして、開業は不可能じゃないけど厳しいよね。

 

-ほら、やっぱり。危うく騙されて開業手続きするとこでした。

 

ただ日本の果物って海外から、すごく評価されてるんだ。安全で味もいい。わざわざネット通販で日本の果物を買う外国人もいるんだよ。輸出産業として始めると、案外儲かるんじゃないかな。

 

-TPPで日本産の青果が…って言われているのが嘘みたいな話ですね。ご自身で始める気はないんですか。

 

あくまで自分は生産者であって、お金儲けの話は苦手。そりゃ廃棄を減らして利益を増やすためには、っていうことを考えるけど、本当にそのくらい。お金持ってる人がやればいいよ。

 

-なるほど。つまるところ資本主義バンザイ、ってとこですね。では最後に農家を目指す若者へ向けてメッセージなんかいただけますか。

 

メッセージねぇ。まぁ興味があったら自分で色々と調べるのがいいよ。さっき言った助成金みたいに、支援してくれる機関はたくさんあるから。でもやっぱり最初から開業はお勧めできない。脱サラして成功した人もいるけど、反対もね。それなら自分みたいに福利厚生がしっかりしている会社化した農園に潜り込んで経験を積む方が安全。うまくいけば跡も継げるし。とにかくチャレンジ!

 

-本日はおヒマな中、本当にありがとうございました!

 

ありがとうございました、ってオイ!

 

バージョン 2
小林さんは独身。こんなイイ男が農園には埋もれている。

 

お話をいただくと、私が持っていた農家に対するイメージは綺麗に払拭されました。一般企業に属する上で大切な、人との関わり合いが農家も変わりないというのは驚きでした。加えて仕事の熱意と展望は普通の会社員と変わらない、いやそれ以上かもしれません。今の若者に足りないと言われているバイタリティは、自然に恵まれた環境に育まれたのでしょうか。人が自然に育てられる仕事。それが農業なのかもしれませんね。

小林正裕さんが勤める「平賀フルーツランド」はシーズンになればぶどう狩りを楽しむことができます。県外からのお客様も多く、非常に丁寧な対応でリピーターも多いです。

 

また果物のオーナーも募集していて、ぶどうの木の他にりんごの木の取り扱いもあります。オリジナルデザインのりんごを作ることも可能だとか。

バージョン 2

 

青い状態のりんごの実にデザインしたフィルムを貼って育てていくと、こんな可愛らしいりんごが作れます。興味のある方は、ぜひ以下のURLから問い合わせてみてください。

 

平賀フルーツランド

http://fruits-hiraga.com/