トーキョーの網

 

 

文京区役所には展望スペースがあった。

諸ヤボ手続きでその電気ポットのよな形状の施設に立ち寄った際は、時にぼんやり下界を眺めた記憶、冗談みたいに密集するビル・ビル・ビル・ビル・ビル・ビル。この全部にいちいち人が詰まっているのだろうか? 覚えず喉が乾くよな光景。しかし今年2016年は、まだ到来せぬ将来のぼんやりした杞憂でなしに、数字上キッパリと人口減少時代に突入したそうですので。

 

現在我が国には820万戸もの住まわれぬ家があり、その空き家率は13.5%(by総務省)とされている。「地方」からは人が消え、無人の家ばかりが増える、歯抜け地域は荒れ果て、治安は悪化、ゴーストタウンと化すんでしょう。コンパクトシティ構想を唱えずとも、自発的に住まうエリアは収縮していくのだ。

 

かくして「東京圏集中」は続く。

 

ご安心ください、表層の街であるトーキョーには明確な境界はない。古都のようなアンタッチャブルに配慮し、眉根寄せつつ物件を選ばずともIt’s OK!…と、他県からはるばる上京なさる方々に断言してあげたいところだ。が。

 

残念ながら東京圏は、ああ、「も」というべきですけども、東日本大震災時の原発事故により核汚染されてしまった…。

 

セシウム降下量は東京に限れば平均して7〜800bq/kg、成人でも100 bq/kgの汚染からは健康へのリスクありとの説もある、少しも「安全」とは言い切れん。

来年の3月には事故後6年となる現在、セシウム134の半減期や雨風によってどこまで軽減されたか、はたまた未だ収束などにはほど遠い事故機からの放出&東日本への微粒子降下は、微量ながらも続いている、数字の変化は定かでないよ。

しかしながら確実に。

日常環境が汚染されたのですからして、決して核廃棄物などではない、平和なる長閑なる日用ゴミがだ、普通に核汚染されておりますです、今もなお。

それが焼却されることで再び環境中に出る、より肺に入り込みやすい微細な粒子となって、…という文字通りの「悪循環」は、焼却が一般的でない世界のどの国も経験していない、自分は東京圏はもはや「長期居住に適さない」と考えており申すっス。洲。

 

ガイガーカウンターを持って歩き回れば、30センチ間隔の勢いで「大丈夫そなスポット」「いわゆるホットスポット」が不吉なシミの如く、なんの同心円をも形成することなく、マダラ網模様を描いているはずである…。なんたるそら恐ろしい、見えない境界だろうか。そこアンタッチャブルですよと指摘しても、もらえぬままに。

 

ちなみに放射性微粒子取り込みによりどこまで人体に影響が出るか、そんなことは神のみぞ…じゃなくて他ならぬ自分のみぞ、知るのでね。文明国としてあるまじき、いや文明国であるが故だろう、判断は個々人が下すべきものとされ久しい、利権の維持しか脳内にないところの国や自治体、電事連などが指定指示する事柄でないのだ。

わかるよね?

政治問題でもない、エネルギー問題でもない、コトはもはや、単純なる「健康問題」へと集約を余儀なくされた、自身の住まう場所が「環境汚染」されていると判断したなら、かような境界からは出ることだ。ソレだけの話。

 

しかしこの話はいつだってここで終わる。

何も進展しない。

舞台は暗転したまま一向に次の場に展開しよらん。

見えぬ境界の突破、言うは易し行うは難し。

 

「世界」とやらも個々人の健康保持になど1ミリも興味がないことは、五輪招致結果からも知れています。例え戦争や大量虐殺で何百何千何万が死ぬる結果になろうとも、人類という「種」が残っておればヨシとする。そういうことなのでありましょうや。そういうことって、どういうことなのでありましょうか。個々人はおめおめと、無意味に死ぬるだけということ。やれやれ。

 

さて、現在日本の人口1億2千万人、そのほとんどは「都市部」…それもはっきり東京圏に、総人口の30%もの3500万人が住まうとの由。

この数字をスウェーデンの人口1000万人足らず…などと比べた日にゃ、人口減少なんてべつにヘーキっしょ。と、楽観したくなる。

しかし総人口の多寡にアラズ、この国が抱えるモンダイは「他所の国が経験したこともないような、急激な少子高齢化」1点なので。

いっかな東京圏集中で乗り切らんとしても、この雪崩は止まらぬので、いずれ国外より移民を受け入れるより他ないのではないかと、人よりも鹿のほうが多そうな底冷えの街・京都で物思う。

 

せめて1000年の都が編み出した知恵であるところの「住みわけ」でもって、上手にイケズに諍いを振り分けてくれ。何より忘れちゃいけないのはニンゲン集まるところには憎悪と闘争「ありき」という揺るぎない事実です。

 

関わらないこと、巧みに避けるという境界の極意を体得した日には、ザルからだだ漏れるが如く減るばかりの日本人口を、海外からの大量移民でもって補いまして、あれれいつの間にやら諸問題解決してたわ! というよな夢のよな未来がね。ひっそり待ち受けているやもしれません。あるいは。

※この記事は特集「世界には輪郭なんてない」の記事です。