突然ですが、あなたは語学が得意でしょうか?
ちょっと苦手だな・・・と尻込みしたあなた。安心してください、わたしも不得意です。そしてそれは、遥か4000年以上前から人類共通の問題でした。
古代オリエントというフィールドで、翻訳文学を中心に、文献学を研究する北住智樹さんにお話を伺いました。

 

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専門は、ヒッタイト帝国における翻訳

 

>>今日はよろしくお願いします。まず、専門を教えてください!

ベルリン自由大学史学・文化学科、専門は古代オリエント文献学です。

 

>>古代オリエント文献学とは?

楔形文字の文書を読んで翻訳し、何が書かれているのか、歴史上にどんなことが有ったのか、見ていきます。

 

>>古代オリエント、と言っても幅が広いですよね?

そうなんですよ。端から端まで何千kmかな、西はトルコから東はイランまでの歴史や文書を扱います。
地理的に広い上に、期間も幾千年にもわたり、一人で全部やるのは不可能なので「どの時代の、どの分野の専門家になるか」を決めるんですね。私が専門としているのは、今から3500年程前、BC1700~1200年ぐらいの現代で言うトルコ・シリアのあたりです。

 

>>ヒッタイトですね!

ヒッタイト帝国の歴史・文学・宗教かな。特に当時の翻訳活動です。

 

>>翻訳活動・・・?

隣のメソポタミア地方からアッカド語やフリ語で書かれた文書(テキスト)が来て、ヒッタイト帝国の文書庫などにヒッタイト語に翻訳されたものが残っている。
その翻訳文学が専門で、私の博士論文のテーマです。

 

>>となると、アッカド語も・・・何カ国語学んでいらっしゃるんでしょう?

楔形文字と一口に言っても10くらい言語があり、ヒッタイト帝国の中だけで8あります。全部覚えるのは流石になかなか骨なんですが、私は翻訳文学を研究しているので・・・
他にも、アナトリア(現在のトルコ)内にはハッティ語と呼ばれた言語があったんです。あまり良く分かっていない言語で、辞書を引いても「?マーク」だらけなんですが、神話や儀礼の一部がヒッタイト語に翻訳されているので。
これらが基本ベースかな。

 

>>すごい!さらに英語、ドイツ語も・・・

現代言語だと英語、ドイツ語で一応コミュニケーションが取れます。文献を読むのにはイタリア語・フランス語も必須。他にはアルメニア語なども勉強しました。
現地で使うので、トルコ語も勉強しています。アラビア語も多分やるんだろうと思いつつ、そのうち・・・笑

 

 

「言語学」と「古代オリエント」を学ぶ、きっかけ

 

>>何が切っ掛けだったんでしょうか?

外国語に興味を持ったのは、割と早い段階ですね。中学2年生の時かな。
土曜日のお昼にNHKの、ドイツ語・フランス語・イタリア語・スペイン語講座の放送が固まっていて。家に帰ってTVをつけると、大体イタリア語の時間だったんです。今ではちょい悪オヤジで有名なジローラモさんが講師でした。
それでイタリア語やひいては外国語って、なんか面白いかも!と思って。

高校もインターナショナル・スクールだったので色々な国の人間がいて、やっぱり外国語は面白いな、と。
その時点で「言語学をやろう!」と決めてはいたんですよ。

 

>>英文学やイタリア文学ではなく、「言語学」となったのが面白いですね。

色々な言語をやってみたかったんですね。
高校の時には第二外国語としてドイツ語を2年間取っていた背景もあり、日本の大学には進学せず、ドイツに来て、ベルリン自由大学に居ます。

 

>>なるほど。では、なぜ古代オリエントなんでしょう?

実は、古代オリエントを研究しているのは偶然のファクターの方が大きいんですよ。ベルリン自由大学では私が学び始めた当時、主専攻を2つ、もしくは主専攻1つ副専攻2つを取らなきゃいけませんでした。
一つは言語学。
もう一つを何取ろうかな・・・と考えて、歴史が好きだから歴史関係を何か、と。
近代史や、考古学でもギリシャやローマなどの選択肢もあったのですが、あえて古代オリエントをやってみようと選んだ訳です。

 

 

「翻訳の歴史は、文化交流の歴史」

 

>>偶然のスタートでも、今はそれが専門で。

今の研究は、両方が重なっている分野なんですね。古代の言語を元に歴史をやっている、あるいは歴史を直接知るのに古代の言語を使っている。
二つの専攻が一つに集約出来ていますね。だから「当時の翻訳」が専門な訳です。

 

>>なるほど!そういう背景があったんですね。その面白み、魅力とは?

翻訳の歴史は、文化交流の歴史なんですよね。
昔から今まで、我々はどういう風に他者を理解しようとして来たのかな、ということ。昔から「他なるもの」を理解するために皆頑張っているんだなと。

 

>>バベルの塔以来の・・・

バベルの塔が崩れていなかったら、私も違うことをしていたかもしれない。笑
今でも翻訳って大事じゃないですか。だから、どうやって現代と関わってくるか。
昔からあるこの問題に対して、我々はどう立ち向かって来て、なおかつ今もどう立ち向かっているのか、眺めるのも面白いなと思って。

学業の傍ら、Oskar-Helene-Heimのベルリン日独センターで「日独通訳研修会」に参加して、通訳について学んだりもしています。そちらは政治家の演説だったり、テーマが全然違うから、正直しんどいですけれどね。