池袋から私鉄で3駅。板橋・大山の住宅街に、密かな人気を集めるカレー屋がある。約10年の移動販売を経て、2015年8月にオープンした「ライモンディ」。化学調味料を使わず、素材選びや下ごしらえから丁寧に作るカレーが話題を呼び、かくいう筆者もその味に魅せられた一人。1年足らずで有名グルメ雑誌からも注目を浴びる存在になった店主・榎本雄紀さんに伺いました。

 

20160509154713_IMG_0103

 

ー最初、たまたまお店の前を通りかかったんです。失礼なんですけど、第一印象は「怪しい店だな・・・」と

 

ははは!(爆笑) ですよね。よく言われます。自分だったら絶対入れないなと思います。

 

ー居酒屋さんの居抜きですか?

 

カラオケスナックの居抜きですね。

 

ー居酒屋なのに、なんでこんなにカレーを推しているんだろう? みたいな

 

ははははは。ですよね。

 

ーそれで、調べてみたら移動販売をずっとやられていたお店と知りました。どの位やられていたんですか?

 

移動販売は10年5ヶ月くらい。そんなもんです。

 

ーそもそも、どうして移動販売を始められたんですか?

 

もともとインド料理屋で3年働いた後、夜はメキシカンバーだけど、ランチはカレーを出すお店で働いていていたんです。

そこのバイトの面接に行った時、「インド料理屋で働いていたんだ」って感心してくれたんですけど、僕はカレーを扱っていなくてタンドーリを焼く役割だったんです。正直に「ナンは焼けますけど、カレーは一切できません」って言ったら「君、面白いね〜。じゃあ採用」とか言い出すナイスなマスターだったんです。

いざ働いてみたら、茅場町で10年やっているお店なのに、俺に仕込みを全部任せてさっさと帰って休んでいる。俺が来たおかげで休めてラッキーくらいの人。ランチ終わってご飯の時に、夜の仕込みもあるのに「えのちゃん、やっぱ飲まなきゃダメでしょ」って毎日ビールを出してくれて(笑)。「いいっすよ、まだ仕込みあるから」って言っても「ダメ、飲まなきゃ」というすげーナイスな人に拾ってもらいまして。「このおっちゃんにできるなら、俺にも絶対できるに違いない」って思わせてくれて、そのうちに友達が移動販売の車を売ってくれる話が来たんですよ。

 

新メニューの南インドカレーセット(ポークビンダール、サンバルとラッサムスープ)
新メニューの南インドカレーセット(ポークビンダール、サンバルとラッサムスープ)

 

ー友達から車を買った

 

そうですね。

 

ー移動販売の車って、どこで手に入れるんだろうって思っていました

 

いやー、僕はほんとラッキーで。つい最近売り払っちゃったんですけど、軽自動車ではなくて、ダットサンの上に箱が載っているタイプの素晴らしいキャンピングカー。(写真を見せてくれながら)本当はもっとお弁当屋さんらしい綺麗なオレンジに塗られていたんですけれど、10年やったんで色は褪せちゃいました。すごい目立つでっかいやつで売っていたんです。保健所の許可もまだ3〜4年くらい残っていて、手続きも必要なかった。

 

ーよく見かける軽ワゴンを改装したような車と違いますね

 

そうですね。もう、結構目立つやつで。

 

ー当時はお店を構えようという感じではなかったんですね

 

全然。(移動販売が)ライフスタイルに合っているから。まあ、頭の中では2、3年くらいの気軽な感じです。

 

ーライフスタイルに合っているっていうのは

 

自由なんじゃないかと。お祭りとかイベントにも、やろうと思えば入っていけるし、そんな感じで始めたんです。

 

ー移動販売は、売る場所を探すのが大変な印象があります

 

一緒に立ち上げた友達が、結構ぶらぶら都心を見て回って目星はつけていたんですけど、いざ売り始めて2週間くらいで、おまわりさんに追っ払われて、そこで初めて路上でやっちゃいけないんだってことを知りまして。それまで移動販売の登録許可証を持っていれば路上で売っていいんだと思っていたんです。そうじゃないと知って、別の場所を探し歩いているうちに、池袋の東京福祉大学さんが敷地を貸してくださることになったんです。

 

ーサンシャインの裏ですね

 

そうです。車を止める場所を開けてくれて、いいよーって無償で貸してくれて。

 

ーお客は学生さんが多かったんですか?

 

いや、校舎がたくさんあるんですが、僕がやっていた校舎はそのうち外国人留学生用になって、それからは全然来なくなっちゃった。だから、お客さんは周りのオフィスの人たちでしたね。

 

ー当時はどんなメニューを出していたんですか?

 

今とそう変わらないです。カレーを作ったことのない人間がいきなり始めたんで。最初からあるメニューはキーマだけじゃないですかね。2、3ヶ月してからバターチキンが生まれて、もうバターチキンが10年間屋台骨を支えてきましたね。後はいろんなカレーを本を見て作って、アレンジしての繰り返しですよね。茅場町のお店でもカレーを作らせていただいていたんで、そこの下地も入っていますけど、レシピをもらったわけではないんです。

 

ーじゃあ、カレーは完全に独学

 

独学ですね。こんな素人のカレーで大丈夫かな? わ、買ってくださるよ! 大丈夫かなー? とかドキドキしながら売り始めましたね。ははは。

 

ーよく始めましたね〜

 

わはは。

 

豚バラとパインのブラックペッパーカレー
豚バラとパインのブラックペッパーカレー(ブラックペッパーが効いてます。トロピカル!)

 

ーある程度自信あるメニューが揃ってから始めるものだと思っていました

 

全くですね。移動販売をやると決まったから、慌ててカレーをやろうかなみたいな感じでした。

 

ーリピーターが出来た時はうれしかったでしょうね。

 

良かったのは、しっかり修行して自信を持っている人とはちょっと違う場所に立つというか。「すいません俺のカレーなんか買っていただいて」で始めたから永遠に腰が低くなりそうな。それはよかったかなあと。

 

ーでも、カレーを実際に食べてびっくりしたのが、ボリュームがあってもお腹にもたれないこと。それでサイトを見たら、油を極力控えてとか無化調と書いてあって。

 

自分では秘訣はわかんない。今言われた部分はこだわっていますけど、原点は、インドにギター背負っていくようなのがスタートなんです。音楽の人生あってこその、今のカレーなんです。ちょっとヒッピーみたいだったんです。「自然よ、ありがとう」みたいな。料理もその考え方でやっているので、眉毛を潜めて「これ美味しいかな?」じゃなくて、口では上手に説明できないんだけど、ごく自然に当たり前に普通に食事を楽しみましょうっていう感じかな。