(これは土台なんですよ。と言って見せてくれたのはものすごく薄い器の原型でした。持つとちょっとしたら割れるかなという位薄くて怖い位軽かった。
「これにかけて焼くとこうなるんですよ。」とまた見せてくれたのは全く違う重さでずっしりとしていて全然違った。)
だからこれを軽くしとかないと、これがちょっとでも重いともっと手がぐっとなるんですよ。これの手に慣れてるので、薄くかけて良い色が出るやつを使うと、なんやこらという軽くなっちゃうんですよ。だいぶ意識して変えないともう手が薄手の手になってしまってるんで
形とかはその時に作りたいイメージが浮かんでくるんですか
いつもデザインをメモしておく、テレビ見ててガラスコップがかっこいいデザインがあったりとか、本とか見てもね、花びらのアールが綺麗やったりするとメモ控えたりね。常にアンテナを張ってますね
何からでもイメージできますもんね(デザインをメモしたノートを見せてもらった)
貼ってあるのは良いなと思って切り抜いてあるんですか
この時は良いなと思ったんでしょうね。今は思わないけど。
職人さんは何からでもインスピレーション湧くというかね。何見てもそうですよね。
評論される仕事やからね、お客さんは当たり前やけどギャラリーさんとか評論家や同業者、先輩方、親、叔父さんとかね。
一番嫌なんは同業者ですか?
褒められて嬉しいのは同業者ですけどね。けなされてショック受けるんはやっぱりそこでしょうね。持って生まれたセンスの良い人とかいますもんね。ああいうセンス見ると羨ましく思う。
センスだけは努力してもある一定まではいけてもそこからはいけないですもんね
平たいお皿出来ないんですかって前にお会いした時に言ったと思うんですけど難しいって言ってはりましたよね
なかなかね平たいのはね。なるべくご要望にお答えしていけたら良いんですけど、
青磁は合う合わないがあるんで。珈琲カップとかも難しいんですよ。
あの私が欲しかった珈琲カップは貴重やったってことですよね
強い土があったんですかね。今取っ手をつけて焼くと引っ張られてグニューと歪むんですよ。ほとんど失敗して全部割ってますね。
うわ~もったいない全部欲しい!!
日本工芸会という美術団体入ってるんですよ。近畿支部があって奈良も工芸作家さん多いですよね。人間国宝の方もよくお会いするんですけど、漆作家さん沢山いはりますけど、陶芸作家さんや染色、人形の人もいてますね。
奈良は伝統工芸の作家さん多いですね。京都と同じように歴史があるとこなんで、超有名な辻村史郎さんという陶芸作家が柳生の郷らへんにいはるんですけどね。とびきりの名工ですよ。
外国の方が来て日本の器を教えてくださいとかありますか
ありますよ。結構熱心でね。
育った環境や感覚とか違うんで、また違った物ができたりするんでしょうね
絶対に日本のコアなところまではわからないので、完璧に日本の陶芸を理解している外人さんっていうのは皆無ですね。素材の活かし方であったりとか高台の削りのこだわりとか、原料の使い回し方とか、外人さんも沢山いはるし、海外でも沢山日本風の陶器をやってはる人いてますけど、台湾とかね。日本の陶器の写しみたいなんやってはる人はいるんですけど、日本のレベル越えてるのはやっぱりゼロ。日本に来て外人さんが作ってはるのは、デザインの感覚は面白いなというのはあるんですよ。素材感とか質感とかで越えてるのはゼロ。日本人じゃないと日本の陶芸の良さはDNAがないと出来ないですよね。すごい修行して人間国宝レベルな人もいはったんですよ。でもやっぱり外人解釈の日本の陶芸なんで別物という感じですかね。
日本人独特の感覚というのは理解出来ない
飲み込めそうな気はするんですけど、芯のとこまでは出来てないですね。表面の2・3枚のとこまでは真似たはるんですけどコアなとこまではわかってはらへんっていう感じでしょうね。外国行った時に日本食レストラン入るとけったいなもん出てくるでしょ。あの感じ。
生まれて受け継がれた血が中に流れてないと理解できないんですかね。
外人さんって大雑把なとこ多い。繊細なとこができへん
ソースで味つける文化ですもんね。素材感そんなに重視してないですよね。日本食は素材があっていかに最小限スパイスで活かすかって感じやないですか、濃いのをジャバっとかけるんじゃないですもんね。
これは薄いですね
淵を分厚くするとやぼったくなるんですよ。でも薄かったらかけやすいし、使いづらいんですけど、お料理屋さんはその使いづらいけれども、家庭に無い非日常性と言うか、危うい感じを使いにくさを度外視して使うのが良いというたはる大将いはります。淵を薄くすると涼やかでねピンと緊張感が出るんで、形も綺麗なるしね。色の器はかけにくさとシャープなところをギリギリのとこで作ってるんです。お茶の時に菓子を5つくらい入れてどうぞって出す物なんで、しょっちゅう洗ったりするもんでも無いんで、結構薄く作ってあるんですけどね。それはあんまり赤が綺麗に出なかったんですよ。
陶器で赤が一番安定しないと言うか、一番出しにくい色なんですよ。
意外と黄色が京都の懐石の店が買ってくれはったんですけど、ちょっとどぎつい感じやしお料理に合うのかなと思ってたら、行ったら豚の角煮入れて出してくれはったんですよ。よー映えてましたよ。白木のカウンターでちょっと綺麗に盛って出てくると、おおーえらいええとこ嫁いでって感じになりますよ。シチュエーションでえらい変わるんやなと思う。
この青がええ感じ。すごいかわいらしい。
その色のきっかけは大阪の心斎橋の大丸の北隣に高級ブランドのCHAUMET(ショーメ)というジュエリーのブランドがあるんですよ。その店舗のネオンがそんな色やったんですよ。御堂筋歩いてたら目に飛び込んで来て、すごい綺麗なブルーやなと思って、これ陶器で出せへんかなと思ってやり始めたんですよ。ロイヤルブルーというか。なんとかもっと高級感ある深いブルーを出したいなと思って創作中なんですけど、それも高級ブランドのネオンの見本があるので、高級ブランドの色のこだわりというかすごいんですよね。良い色出してはるんで。同じような物を陶器で色出そうと思うんですけど、原料の都合上あんまり深みがで無いんですよ。もっと濃厚な赤が入ってるような高級感を出したいんです。
平面のテストピースの時は割と出るんですよ。器は立ちもんじゃないですか。重力で流れるんですよ。そうすると薄いとこができてしまうので、濃厚さが薄れてしまうですね。
これはこうして置いて焼くんですね
そう寝かして焼くから逃げないんで濃厚さが残るんですけど。
難しいんですね。こんなん失礼なんですけど、テストピース見てタイルみたいやなと思ったんですけど
タイル作るのと全く一緒ですよ。タイルは石膏のとこに土入れて作る。
この丸と四角の違いって何かあるんですか?
丸は乳鉢って言ってこれで原料擂るんですけど、四角やと角が当たってつけにくいじゃないですか、ほんで量も沢山いるし、丸やったら少量でも深いところまでこうつけられるんですよ。ただそれだけで。この凹ましてるとこに溜まりができて、溜りのとこの違いがわかるんですよ。溜りがあるとこは釉薬が深く、色が濃くなるんですよ。山のてっぺんは流れるんでちょっと薄くなるんですよ。濃淡が出るんでそれで釉薬の癖を見つけるんですよ。流れやすいか流れにくいか。特徴見るためにわざとつけてあるんですよ。あんまり流れすぎると器にかけるとジャーっと行ってしまって完品が取れない失敗ばっかりできてしまう。
この赤もまちまちで、ほとんど同じ位の赤の濃さを狙ってやってるんですけど、こんだけ安定しないんですよ。ブルーはこうやってほぼ同じになるんですけど、黄色もそんなに違いは無いんですけど、赤だけはちょっとしたことで濃く出たり薄くでたり不安定なんです。
むっちゃ難しいんや
ちょっとドツボにはまってて赤が綺麗に出ないんですよ。失敗ばっかりで。何とか脱却しようと思ってテストピースばっかり作ってるんですけど。
テストピースこの大きさで試して綺麗な満足いく色を作る。綺麗と思った色で追求していく。大きくなるとまた色が変わるんです。テストの繰り返しです。
焼くと2割弱程縮みます。この大きさで良いと思っても大きくなると違う。
形はこれでいこうと決めて焼いて、思ってたのとは違うってことはありますか?
多々あるそんなのばっかり。やったー!と言うのは年に数回位しかない。
私にはこれで充分だと思うけど・・・
標準的なやつは、世間に発表できるレベルのは出来るんですけど。そこに対する目標があると・・・。
自分が納得出来るとこはやっぱり高いですよね。
青磁の場合は本物は故宮博物館とかにあるのでね。昔からの名品が、その質感とか色合いを見てると近づけたいなと。大阪でも北浜の東洋陶磁美術館というとこに名品があるんですけどね。
これなんか妙に綺麗でしょ。大きさも良かったんでしょうけどね。小さいとまが抜けないので綺麗に見えるんですよ。それをそのまんま大きいのにすると、同じような綺麗な感じになるかというとまた別なんで
面積が大きくなると間が抜ける時がよくあるんで、グラデーションもまた変わってくるんで、陶器って結構大きさで雰囲気がガラッと変わってしまうんですよ。これが綺麗にみえてかけても、大きいのにかけた時に同じような綺麗な色にならない。大きい時にも綺麗に見せる何かこう工夫がいるんですね。この大きさだけではわかんない。
そこでこれやと思っても大きいのになるとまた違った色になる?
ひとつの新しい釉薬を見つけようと思うと、半年から一年位かかりますね。使ってる原料が天然の原料なので手が変わるんですよ。そうするとまた一から調合しなおしたりとか、赤が出なくなってるのも原料が変わったせいなんですけど、それの修正ばっかり。僕最近色が増えて来てるから修正ばっかり。ぐちゃぐちゃですね。ほんまは一色にしといたらそればっかり集中できるんですけど、黄色があって赤があって青があって、全部に綺麗な色出したろとか思う野心というかね。修正も入っとるしそれで今はぐるぐるぐるぐると回ってる状態ですね。
自分で自分を追い込んではりますよね
もっと簡単にしといたら良いんやろうけど。味の素を使うとかね。それでは自分の喜びが得られないので。
1人2人の尊敬する先輩に「おおええの出来たやん」って言われたいが為にやってるかのようもんですよ。
自分の周りに目の肥えてる人いはると嬉しいですよね。こだわりわかってくれはると言うか、レベルの高い人がいはると。自分がやってる仕事が今良いのか悪いのか自分では中々ねわかんないですから。評論というか教えてくれはる先輩がいてくれると。
ちょっと厳しいことも言ってもらいーの、褒めてもらった時の嬉しさが最高ですよね
そうそうですね。けなされると凹むんですけどね。
この鉢は全面に淡くピンクだすはずやったんですけど。
作る方にとってはあかんと思ったらあかんしね
年齢と共に妥協点と言うかが高くなってくというか、恥ずかしくなってくる。
勿体無いけど割ってますよね。
勿体無い
木村さんには自分が納得するものしか売らないというラインがあるじゃないですか、それ以下のやつでも、私らやったらすごい良いなと思うけど割ってしまうんですよね
見てたら涙出てきそうになるやろな。割らんといてそれ持って帰るとか言いそう
インタビューの途中で話は脱線して、意外にもお酒をあまり呑まないという木村さんは、大の甘党だそうで、あちこちのスイーツを食べ歩きしておられるそうです。マイグルメ手帳を作っておられて、お店の情報などがびっしりと書かれていました。
木村さん長時間おつきあい頂き有難うございました。
これからも素敵な作品を作り続けて下さい。
木村展之さんHP http://www.ne.jp/asahi/art/kimura/
木村展之さんFacebook https://www.facebook.com/potterykimura/
ギャラリーインタビュー記事 http://www.rakuchu-rakugai.jp/interview/01_kimura.html