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photo by Hikaru Kazushime

 

私は以前、コスプレイヤーだったことがある。

といっても、コミケで売り子をするためのコスプレだったので、いわゆるコスプレイヤーのイメージとは少し違うかもしれない。

オンラインゲームにハマってしまった以降はすっかりやめてしまったのだが、先日話題になった記事を読んで、コミケで知り合った同人誌作家やコスプレイヤーの人々のこと、当時のことをいろいろと懐かしく思い出していた。

 

藤島康介さんと御伽ねこむさんの結婚の記事

http://matome.naver.jp/odai/2146788479557519501

 

 

ふと思いついて今でも連絡を取れる人に話を聞いてみたのだが、彼女たちはニコニコ動画で生放送をしていたり、個人撮影会を開催していたりと、まだコスプレイヤーとして活動しているようだった。ただ、その活動はなかなかに厳しいようで、話を聞いていくにつれ、彼女たちが抱えるさまざまな問題や、彼女たちを取り巻くコスプレの世界の闇を感じることになった。

 

同人誌作家、売り子、コスプレイヤー

 

コミケではさまざまなイベントが行われていたりするが、中心となるのは同人誌の販売である。

しかし、この同人誌を売るのは簡単なことではない。

同人誌にもいろいろあって一概には言えないのだが、基本的には無名のイラストの描き手が描いたイラストのコピーがホッチキスで閉じられたようなものが多い。

そのわりに値段が1000円以上したりするし、もちろんAmazonレビューのようなものもないので、いくらコミケの熱気があるからといって、すぐに売れたりはしない。

(もちろん、同人誌のなかにはオフセット本(印刷業者によって印刷された本格的な本)や、パッケージが工夫されてる本もあるし、ジャケ買いすることもある。また、買う側としては、自分の推しキャラの同人誌は買いやすいだろう。)

 

そのため、販売ブースに売り子のコスプレイヤーを置いて話すきっかけを作り、本を売る、と言う商法を多くのサークルが取っている。

売り子のコスプレイヤー達はキャラクターに対する愛情故に好きでコスプレをしている人が大半だが、私のようにアルバイト感覚で売り子をしてる人もまた多数いた。

 

ちなみに、“売り子”という呼称から想像されるイメージと違い、売り子は全くもってクリーンなバイトである。

コスプレをして、ただ販売する。コスプレイヤーに写真撮影をお願いすると快く撮影ブースまで行ってくれることが多いが、売り子は店番があるので「ブースを空けるわけにはいかないので、ごめんなさい。」と、お断りできるのがコミケの暗黙のルールだ。(今のコミケではコスプレゾーンと販売ゾーンが分けられているようだ。)

 

 

今回話しを聞かせてもらったコスプレイヤーのうちのひとり、瑞穂さん(仮名)はもともとはコミケで同人誌を販売していた。

他の多くのサークルと同じように、瑞穂さんのブースにも売り子としてコスプレイヤーを置いていたのであるが、その売り子は瑞穂さん自身だった。瑞穂さんはそのうちに同人誌の販売をやめ、コスプレイヤーとして活動をするようになる。同人誌がそれなりに売れているにもかかわらずコスプレイヤーに専念するようになったのは、それだけコスプレには魅力があるということだ。

 

瑞穂さんや、その他の現役コスプレイヤー達に聞いてみると、「カメラを向けられる瞬間やシャッター音に、自分が芸能人になった気がする。」と言う意見がとても多い。(私はそのように感じたことがないので、こういうところにコスプレイヤーとしての適性のありなしがあるのだろう。)

 

囲み(360度からカメラマンに囲まれて撮影をされる事)や、露出の多い女性キャラ、BLの絡み撮影などはとても盛り上がる。カメラマンは露出度の高い女性キャラクターを遠慮なくローアングルから撮影もするし、被写体にさまざまなポージングを要求したりもする。

その被写体となることのよろこびにハマっていったのだと瑞穂さんは言う。

 

 

コスプレイヤーが抱えるお金の問題

 

コスプレイヤーたちが抱える問題の1つに、お金の問題がある。コスプレにはとてもお金がかかるのだ。

 

ほとんどのコスプレイヤーは、アニメやゲームは好きなものの、衣装をつくることはできない。そのため、必然的に衣装は購入、もしくは他のコスプレイヤーとの差を付けるために衣装屋さんと呼ばれる、ある程度アニメの知識を持ったハンドメイド作家に発注する。

多くのコスプレイヤーたちが注文を行うようになると、当然のことながら相場は上がってしまう。

 

また、街中で行われるコスプレイベント(秋葉原で行われるアニメフェスタなど)にはコスプレイヤーの体が一定割合の布に覆われていないといけないといった規則や、「長物(硬さのあるコスプレのアイテム。刀や武器などがメインで指される言葉)」についての規定があるので、コスプレイヤーはコミケ、フェスタ、撮影会と衣装を使い分けなければいけない。

 

カメラマンとの関係もある。専属のカメコ(昔から使われているカメラマンの愛称で、カメラ小僧の意味)を抱えるようなコスプレイヤーになると、カメコ側から「あのキャラクターの写真を撮りたい」というようなリクエストもあるのだ。

 

アニメ、ゲームは日々、増え続けている。それと同時に、扮装できるキャラクターの種類も、どんどん増えている。そして、今でいうアイドルの「推しメン(推しメンバー)」のように、「推しキャラ」がどんどんと増えていく。

その衣装代をまかなうために、コスプレイヤーたちは日々苦心しているのだ。

 

 

紫苑さん(仮名)の場合、コミケの後に会場外でも撮影会を行ったり、20人前後のカメコと公園や廃墟、スタジオなどでの有料撮影イベントを個人的に行ったりしていた。撮影会の頻度を上げたり、自分の気に入った気の許せるカメコや金銭面での条件の良いカメラマンとは個人スタジオやホテルの一室での撮影会なども行っている。

紫苑さんは比較的このような方法で上手くいっているといえるのだが、それは紫苑さんが囲いのカメラマンにアイドル並みの人気を得ているからだ。

しかし、そこまでの人気がないコスプレイヤーの場合、話が違ってくる。

 

性的に搾取されるコスプレイヤーたち

 

一般的にいうカメラマン(趣味がカメラのひと)は、風景や人物、動物、植物などの写真を撮って楽しむ人がほとんどだ。

しかし、コスプレの撮影を野外でするカメコの中には、“ギリギリ”を撮影するのを楽しむ人もいる。

性別問わず一定数のカメコは下心を抑えきれず、「コスプレ貧乏」の前にお金をチラつかせる事も多い。

 

特にカメコが1人や少数の個人撮影会の場合、撮影会はエスカレートしやすい。そしてエスカレートした撮影会は、悲劇をうむこともあるのだ。

 

 

密室、繰り返されるシャッター音、気心知れたカメラマンたちの巧みな言葉。

刹那さん(仮名)は少しずつ感覚が麻痺したようになり、徐々に露出度を増やしてしまった。気がつけばキャラクターのセクシーさの表現からはずれ、体にはウィッグしかつけていないような状態だった。ここまでくるとコスプレではなく、ほとんどヌード撮影会だ。

コスプレイヤーに触れてはいけないことは暗黙の了解なのだが、撮影代と称した“お布施”のかわりにその暗黙の了解が破られることもあったという。

 

その後、刹那さんは“脱ぐ”と言う事に関して全く抵抗が無くなり、囲いのカメコ以外の不特定多数でも撮影を受けてしまい、運悪くマイナーなアダルトビデオ会社のカメラマンに盗撮されてしまった。

そしてその映像がインターネットのアンダーグラウンドで流失し、コスプレイヤーの世界で話題になってしまったのだ。

 

そのことが原因で彼女のお囲いのカメラマンは離れていき、刹那さんは孤立していくことになる。

自分の意志に反する形で世の中に出た動画を目の当たりにして彼女はどんどん病んでいく。やり場のない辛さからリストカットもしていたという。そして、笑顔の写真をSNSにアップロードした直後、自宅のマンションより飛び降り自ら命を断った。

 

本人に責任が全くなかったとは言えないとはいえ、非常に悲しいことだ。

 

逆に、こういった性的なニーズに応えるかたちで、たくましく活動を続けているコスプレイヤーも多くいる。

過激な写真や映像を販売したり、個人撮影会では売春のようなことも行われている。アニメやゲームなどのいわゆる二次元のキャラクターを愛する人々にとっての性風俗のようなものであろうか。

それが彼/彼女らの意思にもとづいているものであれば、強く批判される筋合いではないのかもしれない。

しかし、まだ精神的に成熟していない未成年のコスプレイヤーが性的に搾取されてしまうことは許されてはいけないと思う。

 

コスプレイヤーたちは容姿が人並み以上に良いことからか、未成年の早熟な頃から性的な意味で目をつけられてしまう。

 

高校生、大学生。

まだお金を稼ぐ手段のない彼女たちは、手軽にお金を手にすることができる方法に飛びついてしまうのだ。

 

 

コスプレイヤーを続けること

 

今回取材をしてみて、コスプレイヤーを続けることは大変なことだと改めて感じた。

特にコスプレイヤーとしての活動と、増え続ける出費との折り合いをつけることが難しい。

 

もちろん、なるべくお金をかけずにコスプレをすることは可能だ。

 

例えば、

 

  • 値段の安い、風俗店で利用されるようなコスプレ衣装販売店の衣装を買う
  • オークションを利用して少しでも安く購入する
  • カメラマンからの支給
  • 市販の洋服でキャラクターの私服を何となく似せる

 

などがありうるだろうか。

ただ、いずれもコスプレ衣装のクオリティを下げることを意味することになるので、もし本気でコスプレイヤーとしてやっていきたいと考えるのであれば、こういった選択はできないだろう。

 

そこまでしてコスプレする意味なんてあるの?という声も聞こえてきそうだ。

 

でも私は、こういった問題とたたかいながら日々活動しているコスプレイヤーたちの覚悟に対して、尊敬の念を覚えざるをえないのだ。