「海の駅 なおしま」にはバスターミナルもあり、地中美術館をはじめとしたベネッセハウス周辺まではここからシャトルバスで移動する。地中美術館前に到着するも、来場者が多く、整理券を渡され待ち時間ができたので程近い「リー・ウーファン美術館」を先に廻る事にした。こちらも約15分間隔のシャトルバスで地中美術館からアクセスしやすい。

 

Kenさん(@k24da)が投稿した写真

 

安藤忠雄設計による「リー・ウーファン美術館」はまず美術館までのアプローチが素晴らしい。シャトルバスの通る道には控えめに館名が記されたコンクリートの低い壁のみがある。その脇を階段でおりていくと手入れの行き届いている芝生が広がり、自然石と鉄板の彫刻からなる「照応の広場」、その奥に彫刻の背景ほどにそっけないコンクリートの構造物がみえる。これに近づいていくと自然に構造物の隙間にすいこまれるようにして美術館に入ってしまう。

内部は絵画数点と彫刻による展示室、照明を絞った鉄板と自然石による展示室、そして靴を脱いで入り床に座って鑑賞する展示室からなる。絵画は筆跡美しい繰り返しの表現であるが、繰り返しによる「秩序」と1つ1つが微妙に違う「ゆらぎ」から寡黙で静かでありながらも親しみを感じとる事ができる。また、彫刻作品では鉄板の硬質な存在感と自然石の造形にも共通したものが感じられる。座位での展示室にはそれぞれの壁に直で同じものが描かれている。こちらも同様に繰り返しによる「秩序」とそれぞれが微妙に違う「ゆらぎ」、そして座位で見るという姿勢からリラックスし、不思議と瞑想にも似た感覚になった。

 

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同じく安藤忠雄による「地中美術館」はその名の通り、地中を思わせる自閉的で洞窟的なアプローチ空間が印象的である。照明を極力抑え、空調機器類も目に付かない、サインも極力控えめにする事で余計な情報がなくなり、開口部から差し込む光や展示作品そのものが浮き立って印象を深くする。

3人のアーティストのそれぞれの作品の為に作られた展示室があるが、なかでもクロード・モネによる大作「睡蓮」の展示室は絵画をいかに見せるかについて考え抜かれたものである。まず、展示室に入る前に靴を脱ぎスリッパに履き替える。これはおそらく靴音を避ける為であるが、同時に履き替えるという行為が扉のない展示室の入り口に1つの境界を設けているように感じる。内部は大理石の面取り加工がされたモザイクタイルが床一面に敷き詰められており、壁は白い砂漆喰で塗られている。また、天井からは自然光の間接照明が柔らかな光を展示室に充満させ、どれも展示室を静謐な印象にし、絵画を浮きたたせる役割を担っている。

「睡蓮」のいずれの作品もモネ独特の色彩であるがそれぞれに表情が違う。水面と睡蓮が溶けて融合したような印象のものもあれば目の前に池が広がるようなしっかりとした色使いのものもある。地中美術館までの散策路は「地中の庭」として様々な植物や花に彩られているがその中でもモネの絵画を模した睡蓮の咲く池は絵画と実物との対比が面白く印象深い。

 

Kasumi.Mさん(@kasumix)が投稿した写真

 

地中美術館には海を見渡せる『地中カフェ』が併設されている。大きなテーブルに相席で気楽に座り、サンドイッチやケーキなどカジュアルで美味しい軽食を楽しんだ。屋外スペースで好きな場所に茣蓙を引いて食べる事もでき、気候や眺望を満喫できる。

 

最終日は高松港からフェリーで約30分程度の女木島に寄り、その後、丸亀市まで移動して「猪熊源一郎美術館」に寄って帰京した。女木島は浦島太郎の鬼が島のモデルになった島で昔ながらの民家の多い小さな集落である。港近くには、集落の路地を巡りながらいくつかアート作品が点在する。

 

c h i a k iさん(@chakimug)が投稿した写真

 

女木島の民家を利用した行武治美によるインスタレーション「均衡」である。

ミラーガラスの小片が様々な角度でつなぎ合わされ、渦のような柱状を形作り民家を貫く。

外部から差し込む光や風で反射光が様々に表情を変える。民家の扉は閉まっており、来場者が開けて入るが民家という外観から想像もつかない内部に驚く。古びた民家がこの作品を内包する事で新たに命を得たかのような印象をもつ。作品は地上および2階と視点を変えて見ることができる。

 

 

瀬戸内国際芸術祭ではこれ以外に多種多様な展示作品がある。島の使われなくなった民家や施設を利用したものからは展示作品の背景に島の生活が見え隠れする。レンタサイクルで島の自然を満喫しながらのアート鑑賞もいい。季節をかえて何度か足を運び鑑賞したり、イベントに参加する事で人とのふれあいを感じながら作品を楽しむのもいい。アートに興味がない人でも、またアートしか興味がない人でも、様々に楽しみ方の広がる芸術祭だと感じた。