HINGEというネームでピンときた方は、つねに、なにかしらのアイデアや想像を頭に住まわせているだろう。形にならぬイメージが生み落とされていく世界は自由でなければならない。乱雑で混沌し、漠然としたものである必要がある。

自由な発想こそがオリジナリティだからだ。

 

私は小説を書いているが、アイデアが浮かんだとき、真っ先に書きとめることを意識している。登場人物や物語の構築などは、あとから造ることができるが、アイデアは「そのとき、私が真に伝えたいこと」「小説の核となるもの」に他ならないからだ。それは酷く曖昧なもので、ぼやけた輪郭のような形をしており、姿形は見えない。目を凝らすと、風になびく雲のように、あっという間に雲散霧消してしまう。アイデアや発想といったものは、このように頼りなくあるが、鮮烈な閃光にも似た輝きを放つのだ。一瞬の閃きなのだ。

 

それをつかまえることこそが始まりだといえる。その一瞬をつかむことができたなら、小説のテーマは決まったといっていい。閃きの世界を構築していく人物像、環境、年齢、職業を書き落としていく。すると、曖昧で不明瞭であった世界が、形を成し、白い紙のうえに浮かびあがってくる。そういった意味においてHINGEは世界を構築するクリエイターにとって大きな役割を果たしくれる文具だといえる。

 

私個人の見解だが、ノートではこうはいかない。なぜノートでは駄目なのか?

アイデアや想像は、曖昧で、あやふやなままであることが必要である。「制約されない」ことが一番大切だからだ。罫線が引かれ、中央に閉じがあり、裏表もある形では、かしこまってしまい、乱雑になり難い。気に入らないからといって、気軽に破いて捨てることもできない。また何ページ目に書いたのか分からず、必要なものと、そうでないものを別けることができない。ノートは「保存する」ために作られており、破かれることを想定して作られたものではないからだ。その点、コピー用紙であれば、相手に見せることが容易であり、ファックスやスキャナー取り込みにおいても、ノイズがなく、資料のサイズはほぼA4というメリットもある。

 

私は小説に行き詰るとHINGEを持って外へ出る。商品そのものが、ひとつの鞄として役割を果たしているため、あれこれと持ち歩く必要もない。カフェや公園といった、リラックスした環境への持ち運びが容易なのは嬉しいことだ。自宅という固定された場で生み落とされた物語の世界を物理的に移動させることが可能だからだ。そういった自由さが、固まった頭を柔軟にし、アイデアが浮かぶ手助けをしてくれる。環境の変化によって、新たな発想が生まれれば、即座にHINGEを開く。360度柔らかく開いて折り返すことができ、そのためペンで書くための適度な固さが生まれ、机の上におく必要もない。薄い樹脂で作られているので、軽く、バックにも仕舞いやすく、デザインにも優れており、ビジネスシーンにおいてもスマートな印象を与える。

 

 

折り目にあたるヒンジの部分に、左右ふたつ穴が空けられ、クリップつきのペンを内側から縦に差し込み、そのまま横向きにスライドさせ、収納することができるため、使用する際に、ペンを取り外さなくとも、本体を引き抜くことができ、商品のコンセプトである「発想をダイレクトに書きとめる」ことが容易だ。使い終えれば、また差し込むだけでいい。

底受けには、折り返しがあり、10枚近くのコピー用紙を挟むことができるため、補充の数も分かりやすく、ノートのように残り何枚かを確認する必要もない。つねに、白く、自由な状態を保つことができる。樹脂の素材同士が紙を挟む役割を果たしており、すべって落ちることもなく、安定している。裏面にはサブポケットがあり、最大20枚の予備を確保することができ、空にしておけば、相手から渡された資料を折りや、よれなどなく収納することもできる。

 

小説において、登場人物たちが生活している街を取材しにいく場合においても、イメージ画や注釈を書きとめることができる安心感がある。小説とは文字で構築されるため、写真よりも「その場の空気」「街並みの特徴」など、小説のイメージに必要なものが重視される。

「印象」の方が大切なのだ。写真は描写のための資料として撮影するが、あくまで資料であり、小説のメインたるものではない、

このように「自由さとダイレクト」に重視し、コピー用紙という「折り目がなく、罫線もない一枚の紙」は、肩ひじをはらず、子供の落書きのような気楽さで、世界を具体化する可能性をあげ、アイデアを取りこぼすことなく描く役割を果たしてくれる。

 

また、デザインとして優れていることで特筆したいことは、目につく範囲に企業ブランドのロゴがプリントされていないことが挙げられる。ヒンジの数ミリの間に、透明な箔の文字を、樹脂に押し込む形で凹ませてあるだけだ。色もホワイトとブラックの二色で、嫌味がなく、利便性、ビジネスシーンまで想定され、創造者であるクリエイターの発想を尊重した形は、長く使えるステーショナリーとして一流品だといえる。

 

私はKING GIMの「テフレーヌ」を使用していたが、中央にバインダーの色が映り込み、左右が分断され、一枚の世界として書きだすには不向きであった。アイデアは「閃き」であり、瞬間的なものであるため、その場でつかまえておくことが重要だ。そのためには、視界にノイズがあることは避けたい事柄である。また、左右に「一枚の情報」として書いてしまえば、不必要であった場合、どちらか一枚ではなく、左右を捨てなければならない。そうしなければ、開いた際に、同一情報が左右にないことになる。間違って捨ててしまえば、大切な情報を失う可能性も大きい。そういった不安さがある。

また厚さが14ミリあり、保存、収納に適しているが持ち運びには不向きだ。表面加工もPP加工で光すぎているし、発色も原色の色合いで、視界の妨げになる。落ち着いたイメージでないのだ。またサイズもA5、B5と小さく、思い切り書きだすことができない。上部と下部の一部部のみ、透明なプラスチックで止める仕組みで、書きやすさ、付け加えにおいては優れているが、勉学、企画などまとまった情報の保管に使用する方がいいだろう。「発想」という点においては不向きな文具といえる。

 

双方を比べると、クリエイターとして使用するならば、やはりHINGEを勧めたい。惜しむらくは、全国展開されておらず、品切れ状態が頻繁であることだが、それもまた、手にしたときの「特別感」という意味において心をくすぐられるのである。

HINGE
http://idontknow.tokyo/think03.html