musikverein. leer

 

職業を聞かれたとき、オーケストラでバイオリンを弾いています、と答えると、「そうなんですかー。あのう、それで、ご職業は?」と重ねて聞かれてしまうことが多い。

無理もない。音楽家なんて趣味が職業になってしまったような典型的なパターンだろうし、外からみればさぞかし遊んでいるだけのように見えるだろう。

そして、まあ、概ねその通りなのである。

オーケストラで弾く、ということを仕事に選んで、もう10年以上たつ。

日本では石川県金沢の室内オーケストラで、ドイツのドレスデンではオペラでバイオリンを弾いていた。

そして現在はオーストリアのウィーンで、トーンキュンストラー・オーケストラという少し舌を噛みそうな名前のシンフォニーオーケストラの団員として働いている。

 

オーケストラ団員は楽しい。

少なくとも私にとっては、である。もちろん向き不向きはある。

 

まず、旅行が嫌いだとこれは致命傷になる。

オーケストラにもよるが、下手をすると一年のうち数か月は家を空けるほど長いツアーに出ることがある。

以前おうち大好き超インドア派の同僚が、一か月のツアーが始まった初日に、飛行機の中で既に「あと30日、、」と深刻な面持ちでカウントダウンをしているのを見たときはさすがに気の毒になった。

 

何でも食べられる、ということも大事なポイントになる。

長い海外ツアーで、和食しか食べられない同僚が、ホテルの朝食のバイキングが食べられず、日々やせ細っていくのを若干羨ましく眺めたこともある。

それらをクリアしていたら、オーケストラ団員生活は快適である。

 

よく、オーケストラってどんなスケジュールで稼働しているの?と聞かれることがあるのだが、これは説明するのがなかなか難しい。

普通の会社員のように週5日働いて土日は休み、といったようにはっきりとしたサイクルはない。基本、私のオーケストラだと月に7~10回程度コンサートがあって、そのコンサートの為に2、3日程度練習をするのが普通である。

そう言うと、休みなく一か月間丸々働かなければならないように見えるが実際は3,4回全く同じ演目で場所を変えて演奏会を行うことも多く、そのために新たに練習することはないので、一応十分な休日はあるのだ。

ただし、悲しきエンターテイメント業。普通の人たちが休みである土日や、祝日にコンサートがあることが多く、友達と休みがかぶらない。週末の誘いを何度も断るうちに、徐々に誘われることもなくなり、カフェに行ってきました~、なんて楽し気な友人達のSNSの投稿を日曜の午後、コンサート会場で悲しく眺めることもしばしばである。

裏を返せば、平日に休みがあるため、閑散期に旅行に行ったりできるところがいい。でも、そんな変なスケジュールに付き合ってくれる友人もあまりいないので、大抵一人旅になる。初めは寂しかったが、もうすっかり慣れて、今や一人でフレンチのコースを食べれるほどの開き直りぶりである。

 

話がずいぶん逸れてしまった。オーケストラのスケジュールの話に戻ろう。

オーケストラの稼働状況の話をすると、時々、え?一つの公演の為にたった2,3日しか練習しないの?と驚かれてしまうことがある。

アマチュアオーケストラや、学生オーケストラは定期公演に向けて半年、場合によっては1年、みっちり練習することが普通である。しかし、プロオーケストラがそれでは、仕事にならない。

新しい公演の練習が始まる2週間ほど前には、その公演の為の楽譜がオーケストラから用意される。奏者はそれを取りに行き、自宅で個人練習していくため、オーケストラの練習の日は、自身のテクニックの問題は既にない状態であり、アンサンブルと音楽的なことのみに集中できるのである。

、、と、いうのが理想である。

実際は個人練習は任意なため、楽譜を取りに行く時間がなかった場合など、オーケストラ練習の初日に初見で弾く羽目になることもある。それが運悪く難しい曲だったりすると、本当にもう、涙目である。そういう時に限って、隣に若い新人の子が座ったりするのである。彼らは楽譜が用意された日から、オーケストラの練習日に向けて死に物狂いで練習してきているので、その隣でベテランが初見でボロボロの状態で弾くのは相当恥ずかしい。穴があったら入りたい気持ちで、自分のなまけ具合を心から呪うことになる。

そんな時は、オーケストラの休憩時間に、弾けなかった箇所を集中して練習すれば、休憩後には大抵のものは問題なく弾けるようになる。コンサートに支障はないのでご心配なく。でも、かいてしまった恥と心の痛みは消せないので、やはり個人練習は大切である。