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出典:http://kuroppe.tagen.tohoku.ac.jp/~dsc/modules/company.htm

 

最近、太陽光パネルを屋根に設置している住宅をちらほら見かけるようになりました。少し前までは、高価で一般家庭に設置なんてとてもできない、と思っていたのに、科学技術の目覚ましい発展には驚くばかりです。ただ、素敵な家の屋根の上に乗っている太陽光パネルを見るにつけて、もう少しお洒落だったらいいのになぁ、と思うことはありませんか。実は、最近、植物の光合成にヒントを得た、カラフルでお洒落な太陽光電池の開発が進んでいることをご存知でしょうか。

 

光合成のおさらい

それでは、お洒落な太陽光電池をご紹介する前に、そのヒントとなった植物の光合成について、簡単におさらいしましょう。

光合成は、太陽の光を使って、水と二酸化炭素から糖と酸素を作る反応だと理科や生物で勉強したかもしれません。簡単なように聞こえる光合成の反応ですが、実際はそれほど単純ではありません。植物の葉っぱの中には光合成をおこなうための、大規模な(実寸ではとても小さいですが)製造工場があるのです。

この光合成工場はエネルギーを作る工場と、糖を製造する工場に別れています。エネルギー製造工場では、水を材料にして太陽の光エネルギーを、ATPと呼ばれる植物にとっての蓄電池のようなもの充電しています。この過程で、酸素が廃棄物として出されます。そして、エネルギー製造工場で充電したATPを使って、糖製造工場では二酸化炭素を原料に植物の体の材料である糖を製造しています。この一連の流れを光合成といいます。(光合成の全体的な流れを理解するのはとても大変です。かくいう私も大学で学んだ際に非常に苦労いたしました。。)

 

新型の太陽光パネルはこの光合成二つの工場のエネルギー製造工場に設置されている、太陽のエネルギーを「捕まえる」装置にヒントを得て開発されました。この装置は葉緑素と呼ばれる緑色をした化合物なので、光合成色素と呼ばれることもあります。葉緑素は、光のエネルギーを吸収すると電子を放出する機能を持っています。電気とは電子の流れですので、葉緑素は、光のエネルギーを電子という電気のエネルギーに変換する機能を持っていると言い換えることができます。

 

色素増感型太陽電池

さて、新しい太陽電池ですが、仕組みはとてもシンプルです。プラスとマイナスの電極を準備し、その間を導線で結び、電極の間を電子が移動できるような溶液(電解液)で満たしおきます。そして、マイナスの電極側に「光合成色素」を貼り付ければ完成です。

1.太陽光があたると、マイナスの電極にくっつけた色素が電子を放出します。

2.マイナスの電極は電子を受け取り、電子は導線をとおってプラス極側へと流れます。

3.プラス極側にたどり着いた電子は、電解液の中へ飛び出します。

4.電子は電解液の中を泳いで、電子がなくなって困っている色素までたどり着き、もう一度色素と合体します。

この1から4の流れを繰り返して、電気作り出すのが新しい太陽光電池です。この新型太陽光電池は、現在一般的に使われているシリコン系素材の太陽光電池と違い、素材に色素を用いているため「色素増感型」太陽電池と呼ばれています。

 

色素増感型太陽電池のデザイン性

色素増感型太陽電池は、シリコン素材の太陽電池と比べて、製造過程で必要なエネルギー量が遥かに少なく、低コストで大量生産が可能であるという利点があります。また、“色素”を使っているので、使用する色素によって、太陽電池の色を選ぶことができます。

また光合成に少し話を戻しますが、光合成は、緑色の色素(葉緑素)じゃないとできないって思っていませんか。実は、光合成色素は緑色だけではないんです。秋になると、樹々は赤に黄色に美しく紅葉しますね。これは、葉緑素の代わりに、カロテノイドやアントシアニンといった色素が光合成の担い手として活躍するようになるからです。つまり、太陽光を受け電子を放出できる色素は緑色だけではなく、人工的に色素をデザインすることによって、いろいろな色を作り出せる可能性があります。このようにして、色素増感型太陽電池は電極に張り付ける色素を変えることによって、多彩な色にすることができるのです。

さらに、シリコン結晶型の太陽電池は、あまり薄くすると割れてしまいますが、色素は結晶ではなく小さな粒子なので、色素増感型太陽電池を非常に薄く作ることもできます。その特性を生かして、プラスチックフィルムの上に色素増感型太陽電池を張り(塗り)付けて、太陽光パネルならぬ、太陽光フィルムを作ることも可能です。このフィルムは柔らかく曲げられるうえ、複雑な形を成型することもできますし、透過性にも優れているので、窓に張り付けることもできます。

このように色素増感型太陽電池は色そして形状においてデザイン性に優れた電池なのです。

 

今後の課題

何に使おうか、何を作ろうかと創作意欲を掻き立てる色素増感型太陽電池ですが、一方で課題もまだまだ残されています。一番の課題は、発電効率の低さです。シリコン型太陽光電池のように降り注ぐすべての太陽光エネルギーを使うのではなく、色素というだけあって、太陽光中の一部の波長の光しか使えないために、発電効率がどうしても低くなってしまうのです。

ただ、この課題に対しても、新たな色素の開発や、一つの太陽電池の中に複数の色素を配置してみたり、あるいはフィルムを重ねてみたりと、様々なアプローチで解決への取り組みが行われています。

 

解決すべき課題は残されていますが、実用化されれば是非使ってみたくはありませんか。実際に、太陽光発電に関する総合イベント“PVJapan2014”で展示された、色素増感型太陽電池をつかった照明器具(東京大学 先端科学技術研究センター 教授の瀬川浩司氏の研究室とソニーによって開発されました)は、「本当に発電しているの?」と思わせるほどの美しいデザインでした。

エコはいいけど、エコにプラスして、デザイン性も良いものがいいなんて、少し欲張りかもしれませんが、その願いが叶う日は近いのかもしれません。また、さらに研究開発が進んで、ビルの外壁面に壁紙のように張り付けられる色素増感型太陽電池が実現したら、なんて夢が膨らみます。

シリコン結晶型の太陽電池では反射光と反射光による熱の問題でビル壁面に設置することは難しいですが、透過性に優れた色素増感型太陽電池であれば、ビル壁面に塗料のようにして張り付けることも可能かもしれません。都会のビルの森が、本物の森のように、太陽の光を浴びてエネルギーを作る人工森になるかもしれません。もし実現すれば、(人工の)木(ビル)の中で生活しているようでファンタジックで素敵だなぁなんて、思いを馳せてしまいます。