03

 

 

自分のような「関東のへげたれ」が東国からヨロヨロっと上洛し、京都にへばり住み始めるや否や、にわかに気になって気になってもぉーしょうがなくなる単語が、あります。

それは

 

「鬼門」っす。

 

鬼門。すなわち、丑寅…、北東隅の方角のこと。鬼がやってくる方向です。

(それにしても丑寅の方角だからって“鬼は牛の角が生えててトラ柄のパンツ履いてることにしよっと”とか、まるっきり「ゆるキャラ」の考え方だなぁ)

 

江戸の都市計画も鬼門思想は取り入れてたそうですが、常に流動する上澄みの街であるトーキョーでは「そもそも論として、この街どうなってんのさ」などという悠長な件よりも、他の関心ごとがあまりに多過ぎ。

家なんかを建てようかなっというその瞬間だけは、なるほど配慮するかもしらんけれども。玄関だの水回りを北東には設けないようにしなくては、あ、でもそれだと居間が北になっちゃうし間取りめっちゃくちゃ、一体どう住みゃいいんだよこんな家! とかね…。

しかしあくまでも設計する時の儀式のよなもので、普段から気にしているわけではない感。

我が子に命名する段になってやおらイソイソと姓名判断の本を買い込むのと、あまり変わらない衝動のような、もんだろう。ああ。

 

しかし京の都では、ちゃうちゃう。

チャウチャウ犬。

 

なんというのか、RPGゲームで「地図を開く」画面出したらそこには常時「鬼門はこっちです」矢印が出てるよーみたいな。自宅の位置取りは無論のこと、知人の家を訪ねた時、何気なく物件webページ漁ってみた時、さてほんじゃあ鬼門はどっちなんでえと、あたかも北を示し続ける北極星のように、自身が「鬼門方位磁石」と化す感覚。日常にあっさり溶け込み、今日は何曜日だっけ的な感覚で同居、鎮座ましましている、鬼門がさー。

 

じつは私は今、鬼門封じ総本山の麓みたいなとこに住んでいたりする。…と書いて思ったけど、都内から京都へ上洛して9ヶ月住んだ最初の家(たった1年半の間に京都市内で転居しています)も、よく考えたら鬼門守護神の真下にあった。

 

鬼門封じ渡りか。

 

自宅が御所から見て「不吉とされる方角」上にあるのだねーと心して生きる日常。意識すると、鬼門封じ界隈にごっちゃり鬼が溜まってワイワイ言ってそうな、脇を回り込んできた鬼がコンビニの前とかでウロウロしてそうな。なんなら自分も東国からのそのそとウッカリやって来た、一種の異形なのではにゃーか、とか。

 

京都に住み始めて1年半、ちょっと近所の紅茶の専門店でバイトでもしようかなっと面接に行けばソッコーで落ち、京都市内の広告代理店に営業に行き都内での仕事歴を説明すれば「随分自信がおありのようで」と失笑され、不動産を借りれば契約者なのにガン無視され、して

 

「京の都から全力で拒否られているよ、これは」

 

…と思ったが、残念ながらそうなのだろう。モグラさえ関ヶ原を境に行き来しないというのだから、ヒトも本来は東と西で断絶しておけよという話なのやも、京都の人の目から見ると

 

「なんしかげんくそわるいなぁ、かなんなぁ。かんにんしとくれやす」

 

状態なのだねと確信。これはもぉしょうがないよ。はは。

鬼なのだろう。

早速トラ柄のパンツを購入しなければなるめえ。

 

自宅が位置する北東は鬼がドヤドヤ入ってくる「表鬼門」だというのは、知らず知らずに惹きつけられ現に住んでいること、自らが発しているであろう「鬼臭」からも嫌というほどわかったが。

もしも居住地を定めるのに鬼門界隈を避けようかなーと思うよな向きがあれば、配慮すべきは北東だけなのだろうか、否。どへえ。

 

反対の南西は、鬼ご一行が退出するところの「裏鬼門」だよ。

 

かくして表鬼門と裏鬼門を結ぶ一直線上に、鬼門封じが点在することと相成った。何しろ都ですからっ(メガネずり上げ)。

三方を山に囲まれた狭っちい盆地である京都市内は「歩けば鬼門封じに当たる」勢いの、ガッチガチの鬼防衛都市空間なのですねい。おおう、息苦しいなぁ…。

 

04

 

 

さて、当の京都御所にも、当然鬼門封じはある。

 

「猿が辻」

 

がそれです。

北東の角、塀の形が何やら凹んで妙なことになっている…「隅欠」(すみおどし)という鬼門除けの工夫のひとつ、角を削りとると

 

「北東は無いよーん」

 

ということになるのだ、発想がすごいや。鬼が隅を発見できず前後不覚に混乱、どっか他所へフラフラ去って行く…んだか何だか、まぁそゆこと。「角をとる」は「鬼の角(つの)をとる」にも通じる説、もあったりして、ええ加減・良い加減なんじゃないの。知らんけど。

Googleマップ航空写真でもシッカリと「わぁ角が落ちてる、落ちてる」と確認でき、何か大発見をしたような錯覚に陥ること、請け合いです。

 

京都御所の猿が辻は隅欠だけでは飽き足らず、軒下に目立たぬよにして猿がいる。

 

鳥烏帽子を被り、御幣を持った木彫りの猿ね。猿は丑寅の反対方向の干支であるので、鬼に強い生き物なのだよということらしく、鬼門守護スポットにはことごとく猿の像があったりするとの由。そういえば桃太郎が鬼退治に赴く際にも、猿を引き連れていたっけ(続く干支の鳥、犬も)。

 

猿なあ。

 

猿といえば、わざわざ嵐山モンキーパークまで出かけなくとも、大原方面などへちょいと出かけると、普通にいる。「猿が出ますが構わないでください」的な看板の前を子連れ母猿が悠々と歩いている。構わないけど。

コンパクトシティ京都なのだから、猿が闊歩するエリアと鬼の通り道エリアと、これはもう余裕で重なっていることでしょうね。

 

夜な夜な「鬼vs猿」バトルが繰り広げられ…てるかと思えば、ちょい西からは天狗が飛来、鹿もイノシシも加わってワアワアどよめいてるところへ、比叡山発着習慣のUFO降りてきちゃって、全員揃ってUFOアブダクティー。

 

鬼門封じどころの騒ぎじゃないな。

 

なんたる愉快な街だ、京の都というんは。