オンラインゲームにも現実世界のような組織がある、と前回の記事では紹介した。今回は、組織がどのようにしてできるのか、どうやって規模を大きくしていくのか、そしてどのようにして終わるのか。そんな栄枯盛衰のお話。

 

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なぜ組織ができる?

そもそもなぜゲームに組織ができるのか、そしてプレイヤーはなぜ(一見面倒にも思える)組織に属する必要があるのだろうか?

たいていのオンラインゲームは「1人でも・みんなとでも楽しめる!」という宣伝文句を使っているのだが、ゲームを始めた最初のころは別として、ある程度ゲームを進めたゲーム中盤になると、1人では入ることの出来ない場所があったり、ゲーム内のクエストをクリアできなかったりする。そのため、人を集めないとそこで足止めをくらってしまうということがあるのだ。

そういったクエストを無視して別の楽しみを見つけることもできないわけではないのだが、それではゲームの面白さを味わうことが難しいため、たいていのプレイヤーは定期的に人を集めるための組織を作るか、あるいはすでにある組織に所属をする、という選択をする。これが組織ができる最初のきっかけとなる。

 

組織を大きく、強く

そのようにして組織ができるわけだが、この組織は常に大きく、強くなることを求められる。

PvP(組織同士の戦争)と呼ばれるシステムがあるからだ。ゲームにもよるが、ゲーム内では大体3〜4の大きな「勢力」に別れ、それぞれ競い合うようなゲームシステムが多い。このいくつかの勢力の中に、さらに組織がいくつも存在する。

基本的には、同じ勢力の中の組織が協力をして別勢力と戦い、その趨勢でゲームが進んでいくのだが、中には組織同士の対立もあり、同じ勢力内の別組織を、別勢力と手を組んで潰そうとすることもあったりする。ライバル会社と手を組んで自社内のライバルチームを追い落とすようなものであろうか。現実でもゲームでも人間は変わらないものである。

 

話を戻そう。

組織を大きくする手段にはいくつかあるが、まずは一般のプレイヤーに対しての勧誘活動が行われる。最も一般的な宣伝方法としては、ゲームの総合コミュニティでの書き込みなどだ(参考:http://eos.hangame.co.jp/community/friendbbs.nhn?gameid=EOS_FRIEND
)。

ただ、勧誘活動でも組織間の競争があるので、宣伝方法も工夫する必要がある。CMの用な動画を使っての勧誘活動や、ニコニコ動画の生放送での勧誘活動、TwitterなどのSNSを使った勧誘活動、とゲーム外での勧誘活動も活発である。こういった地道な活動が身を結べば、組織は有名になり、組織拡大につながる。

 

(宣伝動画の一例)

 

組織メンバーの「トレード」

組織に新しいメンバーを入れることのほか、組織を強化する手段として、「トレード」がある。プロスポーツ選手のトレードのように、所属しているメンバーを組織間で交換するのだ。

トレードでは、スポーツ選手のトレードのように、メンバーの意思にかかわらず組織側から一方的に宣告されてしまう。私は戦略側に属していたのでトレードされることはなかったが、一度だけ「戦略の調整」のためのトレード会議に参加したことがある。ヘッドハンティングや買収(アイテムの提供や移籍金の支払い)が行われ、メンバーを駒として扱う、実に生々しい会議だった。

このトレードは非常に重要な意味を持っていた。

ゲームには「デスペナルティー」と呼ばれるシステムがあり、一度ダウンすることで経験値が1%ほど減ってしまう。初期ゲーマーならあまり影響はないのだが、ある程度のレベルになると、たった1%の経験値を稼ぎなおすのにも数時間かかってしまう。それを防ぐための「経験値損失を防ぐアイテム」が課金で売られているのだが、格下のプレイヤーであれば2時間の戦場でそれを100個単位で消費する人もいる。(上級者であれば5個程度だろうか。)仮にそのアイテムが1つ50円だったとして、週に2度ある戦場に参加すると、それだけで10000円の課金だ。それで組織が勝てれば無駄では無かったと思えるが、明らかな負け戦に課金をしたくないと思うのは当たり前。そこで、主力メンバー以外のトレード、かつ、格下メンバーのモチベーションの底上げとなるように、戦力が調整されるのだ。

 

いろいろなマスター、思い出のいくつか

キャラクターを操作しているのは人格を持った人間なので、組織のなかではいろいろなことが起こる。メンバー同士のケンカや、派閥も出来る。そういったことをどうまとめるかで、組織のリーダー、マスターと呼ばれる人の手腕が問われるのだ。

今まで沢山のマスターを見てきたが、マスターもいろいろだ。私が見てきた中では男性のマスターが多かった。(一般論にできるか分からないが、)とある女性のマスターは、男性キャラクターに夢中になりすぎるあまり、上手く組織を管理することが出来なくなったり、ということもあった。女性はそういう傾向が強いように思う。主力メンバーには男性が多いこともあって、マスターは男性のほうが適正があるかもしれない。また、マスターがだらしないと、主力メンバーがその組織を捨てて、新しい組織を立ち上げてしまうということもある。

 

私の記憶に残るマスターがいる。

彼は、実に寡黙な人だった。と同時に、いわゆるイジられキャラでもあり、メンバーから愛されていた。普通のプレイヤーなら狩り中に話しかけられても「ごm、狩りチュ(訳:ごめんね、狩り中)」と素っ気ない返答だが、あるときは、狩りをしている場所に行き周りでふざけあって、わざと死んで倒れこんだ状態で「あぁ、地面が気持ちいい…」と自虐的な事をしてみたり。ダウンしてしまった仲間を蘇生させるために、わざわざサブキャラを連れて来てデスペナルティのないようにくれたりと、とにかく面倒見もいいマスターであった。みんな狩りの息抜きにマスターの居る格上マップに行こうとして途中で息絶え・・・、マスターが世話を焼きにサブキャラクターで蘇生・・・と、とにかく楽しかった。

格差や序列がつきやすいギルド内でも決して職種やレベリングでは差別しなかった。「ゲーム内弁慶」と呼ばれる、高圧的な態度をとったり、レベリングと肩書をアピールする人がゲーム内にはよくいるのだが、そういった人たちとは全く真逆の人種であった。メンバーにとても慕われ、それと同時に組織を大きく強く導いてくれた。

私達がゲームで経験値を積み上げている間に、日々メンバーに目を向けながらも、外部との接触も繰り返し、全てのメンバーを見捨てることなく他の組織の吸収や合併を行った。当初6人だったメンバーは、最終的には50人程のメンバーにまでなった。

彼は、最後の合併の際、相手方を立てるために、マスターの座を何の躊躇もなく譲り渡した。マスターの座を譲り渡すのはゲーム廃人と呼ばれる私達にとっては負けを認める事に近いものである。彼はマスターと呼ばれる快感や悦に浸ることもなく、ただただゲームを有利に進めるために行動を選択する、本当のゲーマーだったのかもしれない。

ユニークなマスターは他にもいた。携帯電話を家の何処かで無くしたらしく、「誰か電話鳴らしてー!番号は…」と、堂々と個人情報流出してメンバーに突っ込まれていたり、自分の実生活の結婚式に「友達居ないので、結婚式に参列してくれる人居ませんかー?」と組織内のチャットで参列者を募っていたり。私は遠方だったので、不参加であったが、初めての顔合わせがマスターの結婚式で、席順の名前の後に補足としてキャラクター名も書かれていたらしい。マスター側の身内を呼ばない結婚式だったらしく、通常は身内席である奥の席は組織の幹部達でまとめていて、その中には私服の小学生もいたとか。

 

組織がおわるとき

どのオンラインゲームも殆ど寿命は2年だ。ゲーム内人口が減り、課金者も減り、勢力が固まるのが2年だからだ。たいていは、その2年を区切りに、少し要素が違った類似ゲームが始まる。そうなると新しい世界(ゲーム)への組織ごとの移動が行われるのだが、パソコンのスペック不足だったり、人間関係だったりで離脱していくメンバーが多いと聞く。そうなれば組織は空中分解し、そこでおわることになる。
私たちの場合は、ゲーム内だけでなく、SNSツールやSkypeで繋がっていたこともあって、スムーズに新しいゲームへ移動することができていた。

今でもオフ会をしたりする。オフ会では、さきほど触れたおかしな結婚式の話で盛り上がったり、カップルがいつの間にか誕生していたり、別居中の夫婦が偶然にも同じゲームをしていて不倫が発覚したりと、本当に様々な人間関係が見られる。ネットに深入りしていない人にしてみれば驚きの連続かもしれないし、ちょっと引いてしまうかもしれない。しかし、オンラインゲームから関係が始まったとはいえ、私たちは仲間であり、友達なのだ。