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photo by Francesco Cioce

 

半導体と光という、このちょっと考えると関係のなさそうな二つのものは、電子と光子によって深く結びあわされている。この関係を始めて明らかにしたのが、アインシュタインの光量子理論だった。

アインシュタイン以前の考え方では、光は波であると考えられていた。事実、この波の理論の集大成とも言えるマクスウェルの波動方程式により、今日でも光に関する多くの事実が矛盾なく説明できる。だが、物質に光が当たると電子が飛び出してくる光電効果において、電子に与えられるエネルギーは光の強さではなく、周波数のみに依存するという事実は、光が波であるとすると理論からは、どうしても説明できなかった。

これに対して、アインシュタインは光は波でありながら、また粒子としての性質を持つとした光量子理論により、この事実が説明できることを示した。この粒子は光子と呼ばれることになる。

現在では、光、つまり私たちが普通に連想する太陽や電球の光とは、X線や携帯電話の電波と同じ電磁波の中の、ある狭い領域の総称に過ぎないことが分かっている。光とは、私たちの目という、このあまり性能の良くない感覚器官が関知できる範囲の電磁波のことなのだ。

 

ちなみにアインシュタインがノーベル賞を受けたのは、この光電子理論によってであり、かの有名な相対性理論ではない。これは発表当初、世界中のどこにも、相対性理論を正しく理解できる科学者がいなかったためとも言われる。またのちに、相対性理論の正しさが立証されると、その影響のあまりの大きさに、ノーベル賞すら位負けしてしまったためともいわれている。

 

光を受けた物質から電子が飛び出すという光電効果を、半導体を用いることで、より効率的に利用できるようにしたのが、フォトダイオード(太陽電池)に他ならない。そしてこの逆の現象、電子を流すことにより半導体が発光する現象を利用したのが発光ダイオード(LED)なのである。かつては、光の波動理論の小さな瑕疵としか考えれれていなかった光電子現象が、今や大きな産業を支えることになっているのである。

 

半導体とは

半導体についてもちょっと説明しておこう。

半導体は電気を良く通す金属などの良導体と、電気を通さないガラスや磁気などの不導体の中間的な性質を持つ物質のことだ。半導体は、ある条件では電気を通し、ある条件では電気を通さないという性質を持たせることができる。この性質を用いて、いろいろな特性を持つ電子素子を作ることができる。これらの電子素子は、テレビやコンピュータ、携帯電話など、ほとんどすべての電子部品のもととなっている。

 

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photo by Angel Bawa

 

半導体のある意味あいまいな性質に利用価値が大きいのは、人間の世界でも同じかもしれない。融通が利かないで、白黒はっきりした人は組織において、必要ではあるが沢山いると面倒だ。人間の組織においても、状況により柔軟に自分を変えて対応することができる人の価値は大きいのではないだろうか。

半導体には、n型半導体とp型半導体がある。n型は電圧が加わると、移動しやすい電子(伝導電子)の移動によって電気が流れる半導体である。p型は電圧が加わると、正孔と呼ばれる電子の欠乏した穴(のようなもの)の移動によって電気が流れる半導体である。

このn型とp型の組み合わせにより電子素子が作られる。n型とp型を接合したものはダイオードと呼ばれる。光から電気を発生する太陽電池も、電気から光を作り出すLEDも、このダイオードに分類される。LEDというのは発光ダイオード(Light Emitting Diode)の略である。

ダイオード以外の半導体素子として代表的なものとして、n型の間にp型を、あるいはp型の間にn型を挟んで接合したトランジスタがある。トランジスタは、電流の増幅あるいはスイッチングなどに幅広く使われる。

 

太陽電池とLED

太陽電池(フォトダイオード)は、先に説明したn型とp型の半導体が接合されて作られている。この接合部分の近接の接合領域ではn型半導体の伝導電子と、p型半導体の正孔が、拡散により結合して、伝導電子も正孔も少ない空乏層という層を作る。この空乏層のn型半導体側は電子のマイナスに対してプラスに、反対にp型側は正孔のプラスに対してはマイナスに帯電する。この形成された電界により、伝導電子と正孔は電気的な反発力を受ける。このため伝導電子と正孔の拡散はある領域で停止し安定する。

実はここまでの仕組みは、次に説明するLED(発光ダイオード)も同じである。太陽電池の場合はこの安定したところから光が加えられ、LEDは電圧が加えられることにより、その後の振る舞いが異なる。では光が加わる太陽電池の説明を続けよう。

接合領域に十分なエネルギーを持った光(光子)が照射されると、接合部の電子が光子のエネルギーを吸収し励起され、移動しやすい伝導電子としてn型半導体側へ押し出される。電子の押し出された欠損部は正孔として、同様にp型半導体側に押し出される。これにより当初の電気的バランスは崩れ、起電力が発生するのである。それぞれの半導体に電極を取付け回路を形成すると、先の新たに発生した伝導電子が回路を通して流れる。つまり電流を外部に取り出すことができるのである。

 

LEDでも、太陽電池で説明したn型とp型の半導体の一端が接合され、安定するまでの仕組みは同じである。LEDでここに電圧が加わることから、異なる筋道をたどることになる。

p型側にプラス、n型側にマイナスの電圧を加える。こうすると、電子はプラス側に、正孔はマイナス側に引かれて移動し始める。これは互いに接合した部分に向かって移動することであり、接合した部分で電子と正孔が出会うとことになる。電子と正孔が出会うと、両者が結合する現象(再結合)が起こる。再結合状態のエネルギーの大きさは、電子と正孔が移動する際に持っていたエネルギーの足し算よりも小さくなる。つまりエネルギーがあまることになる。このあまったエネルギーが電磁波、つまり光として放出されるのである。

LEDでは、材料を変えることで固有の色を出すことができる。赤色と緑のLEDは比較的早い時期に開発されていたが、青色を出すことは長い間困難とされていた。これを可能にしたのは3人の日本人で、この発明でノーベル賞を取ったのは記憶に新しいところだ。青色LEDの開発により、赤、緑、青の光の3原色がすべてそろい、白色光を含め、あらゆる色の光をLEDで作り出せることとなったわけだ。

 

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photo by Judit Klein

 

さて、太陽電池とLEDはその基本構造は同じで、その働きは真逆になっていることがわかる。太陽電池は光を電気エネルギーに変換する装置であり、LEDはその逆、電気エネルギーを光に変換する装置であるといえるからだ。

これは、モーターと発電機の関係ともよく似ている。モーターと発電機もその基本構造は同じでありながら、その働きはちょうど真逆になっている。モーターは電気エネルギーを回転という機械エネルギー変換する装置であり、発電機は機械エネルギーを電気エネルギーに変換する装置であるからだ。

 

この全く逆の働きをするものが、同じ構造になることがあるとは、何を意味しているのだろうか。当然と言えば当然のような気もするが、不思議と言えば不思議なことではないだろうか。何か深い意味があるような気もするのだが、こんなことを思うのは筆者だけだろうか。