実際の研究について
>>では、実際の研究は、どんなプロセスで進むんですか?
まず、掘り出した粘土版などを手書きで写します。
この資料(写真)を元に、音写つまり今のアルファベットに転写したものを作り、翻訳し、コメントをつけて・・・というのをずっと、出土したもの毎にやっていきます。
物語、歴史、ヒッタイト帝国と他国との条約、動物の肝臓を使った占い、王室書簡、地方の書記官同士の砕けたやりとり、国が乱れている時の王と王女の祈祷文、土地の贈与の文書、などなど・・・
>>それぞれ文書として残っているんですね。
そうです。その中で、専門を決めて研究していくんです。
ヒッタイト帝国でも宗教が専門の人、中期アッシリアの政治情勢が専門の人、それより500年後のバビロニアの経済が専門の人、うちの大学には数学のテキストなどを読んでいる人も居ます。
>>北さんの専門は翻訳、と。フィールドワークもされるんですか??
私は文献派で、普段は行かないんです。でもトルコには2回行きました。
カマン・カレホユックという、日本人が発掘している所があって。そこの副隊長さんがベルリン自由大学で博士号を取った方で、現場を見ておくと良いから・・・と言われて。それが唯一の発掘体験ですね。
私が専門としている文書は出土していないのですが、現場の雰囲気を味わえました。
研究によっては、新しい資料が出土されるのを気長に待つこともあります。
基本的に考古学者は気が長いと思うので・・・
>>気が長い?
ヒッタイト帝国の首都ハットゥシャは1906年から始まって、もうかれこれ100年以上掘っていることになりますが、いつ終わるのかな~という感じで。
>>なぜ、そんなにゆっくりなんでしょう?
ゆっくりなのではなく、何百年にもわたって、何万人も住んでいた街を、数百人で発掘していてもたかが知れている訳です。しかも慎重に掘らねばならない。
でも最近は、掘る前に地中探査ができるようになってきたんですよ。
ある程度地面の中に何が有るかを見て、掘る前から壁の跡などが分かるようになりました。
建物が明らかにあるな、と分かればそこを中心に掘れば良いわけです。
>>効率的になってきているんですね。ヒッタイト帝国だった所は、紛争も多そうですが・・・
シリアとトルコの国境に、カルケミシュという都市がありました。国境地帯で、地雷に囲まれて発掘が止まっていた場所です。
でもそれはそれで功を奏して、盗掘をまぬがれたんですね。最近は地雷を撤去して、また発掘が再開されたり。ポジティブに進んでいる所もあります。
>>ロマンがありますね!
何年掛かるか分かりませんが・・・どの学問でも同じだと思いますが、自分が現役のうちにどこまで分かるかな?という感じですね。分かった、と思ったその後に新しいものも出てくるし。
「学者だけでこんな面白いことをやっているのはもったいない!」エンターテイメントとしての学問
>>現代において、考古学の意味はどこにあると考えますか?
観光に行ったら、遺跡を見ることがありますよね。歴史学者が居なかったら、説明書きも無くそこに古いものがあるだけ、なんです。
それはやっぱりつまらない。
あぁ凄い、でおしまいになるのではなく、ワンステップ踏み込んで「実は○○王が建てて、△△が中に有るよ!」と分かったら、さらに一つ面白さが増える。理解の糸口になる、分かってもらえる切り口になるといいな、と思いながら研究しています。
もう一つの理由は、純粋に面白いということ。
実は勉強が好きかというと、そうでもないんですけどね。
>>お?そうなんですか?
正直、勉強しているときは無の境地で。どっちかというと、勉強したことを他人に喋っている時の方が楽しいんですよ。
道に聴いて途に説く真似はしたくないですが。笑
個人的には、歴史科目をどういう風に面白く伝えられるかな?ということも考えています。さかなクン(ほどのテンション)まで行かなくても、どうしたら自分がやっている面白いことを他の人にも分かって貰えるか。
学者だけでこんな面白いことをやっているのはもったいない!エンターテイメントとしての学問も、私の中では割と重要なんです。
>>面白さを、分かってほしい!
そうですね。考古学って、インディ・ジョーンズや『MASTERキートン』の影響か・・・パッと思い付くイメージは良いですよね。
なんだかんだで、ぼんやりと分かって貰える。基本的には受け入れられやすいかと思います。
「私は多分、死ぬまで退屈しないと思います」知識の幅広さを知る楽しみ
>>ベルリンに住んで、どれくらい経つのでしょうか?
かれこれ12年半ですね。2003年8月に来たので。
>>ベルリンでの生活は・・・
好きですよ。色々なイベントとかもあって面白いですね。
と言っても、ほとんどの時間はここ(研究室)に居るんですが・・・
>>そうか!同僚の皆さんも研究者なんですよね?
そうですね。
最近まで同じ部屋だった同僚はエジプトが専門で、私と同じくヒッタイトが専門の人、中近東の建築が専門の人、紀元前のテキスタイルが専門の人、エジプトのヒエログリフが専門の友人・・・
>>色々な刺激があって、面白そう!
そうですね。色々な分野の話を聞くのは面白い。と同時に、きりがない!笑
フランスの有名な古代オリエントの専門家だったボテロという方曰く「退屈な時間が無くなった」、正にその通りで。
私は多分、死ぬまで退屈しないと思います。
何かしら、あれもこれもある・・・と、きりがないですからね。
>>学ぶことに果ては無いと。
果ては無いです。考えてみると、いかに人間の頭に詰め込むことができる知識の少ないことか。
例えば色々な言語をやりましたけれど、まだ他の色々な言語を勉強する時間が取れるかも分かりませんし。だから面白いんですけどね。
きりがないからこそ、自分の専門分野を決めて、そこではより深くできたらと。
高校の時の歴史の先生が言っていたことですが、“wide range of knowledge”ー知識の幅広さ、幅広い知識。
それを常に頭の中に入れつつ、色々なことをやって行きたいと思っています。
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・北住智樹CV
http://berliner-antike-kolleg.org/cv/tomoki-kitazumi/
・ヒッタイト(+α)のメジャーな発掘地リスト
http://www.hittitemonuments.com