2014年に日本公開され、この夏DVD発売されたアレハンドロ・ホドロフスキーの最新作映画『リアリティのダンス』(2013年・チリ/フランス)。

ホドロフスキーといえば、カルト界の奇才として世界中で知られる大監督さんですね。

前作『サンタ・サングレ』から23年を経てお撮りになった本作は、これまでの「カルト色」はもちろん健在ながら、なんといいますか「ちょっと落ち着いたのかな」というような「ほどよいストーリー仕立て」で、なんだかほっこり。

せっかくの休日にあまりにもどぎつい映画はちょっとなあ…という方にも、自信をもっておすすめできます(多分)。

 

自著を元にした「自伝的映画」であるこの作品の舞台は1920年代のチリの港町・トコピージャという、実際監督さんが育った街になっております。撮影も実際のトコピージャで行われたとのことですが、なんと少年時代にもあった「日系人経営の床屋」が今もまだあるそうで、映画の中にも登場します。

若い頃に禅に傾倒し、日本人の禅僧とも交流のあったホドロフスキー氏、同じ日本人としてちょっとだけ親近感を抱いてしまいますね。

 

もしかしたら親子のストーリーに感動すらしてしまうかも? な『リアリティのダンス』ですが、とはいえそこは侮るなかれ、カルトの巨人。これでもかと押し寄せてくる鮮烈な色彩や、見たこともない「ありえんだろう! いや、でもありえるのかも?」と脳内が混乱するシュールなシチュエーションの数々、「本当に80歳過ぎた老人が撮ったの!?」と悲鳴を上げたくなってくるほど。ぼかしを入れたり入れなかったり、俳優の局部があんなことやこんなことに、お気に入りの小人症の方々もわんさかご出演。笑っていいのか泣いていいのか、さっぱりわからんシーン目白押しです。

監督さん自身が「単なる娯楽ではなく、経験となるような映画」と仰っているのも、顎が胸にめり込むほどに、大きく頷けます。

 

ご自身の子ども時代を幻想シーンてんこ盛りで描くこの映画、ホドロフスキーの父親役を演じているのは誰あろう、ホドロフスキーの長男ブロンティス・ホドロフスキーだったりもします。他にも音楽を別の息子アダンが担当していたり、アダンは音楽を担当しつつも俳優として出演もしており、さらに衣装デザインを妻のパスカルが手がけていたり、あ、もう一人の息子さんがけったいな行者役に扮していたりもします。(息子何人だよ? とお思いでしょうが、この映画には3人登場していますね)

なんだこれは家内制手工業か!? とか思ってしまうところも、なんとも愛すべき暖かさがあるのであります。

 

時折ホドロフスキー本人も「こ憎らしいタイミングで」詩情たっぷりにチラチラと出演している映画ラストは、船出のシーンです。現在はすでに齢86歳にもなろうという監督さんですから、思わず「三途の川…」という言葉が浮かんでしまうのも無理はありません。

 

「最後の作品になるかもしれない」

 

と、じつにしんみりした気分。

…になってしまってから、早まったと驚いたことには、なんと今夏すでに続編映画を撮り終えていて、来年公開なのだそうであります。

『リアリティのダンス』に度肝を抜かれたノリでいけば、次回作には当然のことながら期待大。期待し過ぎてこちらのハードルが高くなり、逆にがっかりするかもしれない! それでは困るから期待しないようにしよう! などという要らぬ心配までしてしまうほど。

アレハンドロ・ホドロフスキー、もう老人とは呼ばない! オーバー120まで余裕で生きてくれ!(悲願)

 

同監督の「エル・トポ」 (1970年・メキシコ) は日本でも根強い人気を持つカルト中のカルト映画で、今観てもぜんぜん古さを感じさせない…どころか、やはり完全に「イッちゃって」ます。もしまだ観たことがない! という方は、これを機会に合わせてどうぞ。

 

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