前編はこちら

コレペティのオーディションってどんな感じ?

吉澤
オーディションと言っても、ピアノを弾くだけだったからなあ

竹中
何を弾かれたんですか?

吉澤
ウィーン国立歌劇場から、ピアノ曲1曲持ってきて、って言われて

竹中
何でもよかったのでしょうか?

吉澤
うん、何でもよかった。一応ピアノが弾けるかどうか聞きたかったんじゃない?(笑)私はワルトシュタインの一楽章を弾いたんだけど、久しぶりにソロの曲弾いちゃってすっごい緊張しちゃったよ。(笑)

竹中
暗譜ができないとか?

吉澤
暗譜ですらなかったよ!(笑)

竹中
オーケストラのオーディションみたいにカーテンの後ろで弾いたりとかは?

吉澤
カーテンは無しだったよ。初見もあった。フィデリオのフィナーレのすっごい弾きにくい所。オペラを全部知ってる人なら、そんなのすぐに弾けるんだろうけどね。

竹中
いや、知ってるだけじゃ弾けないでしょ!

吉澤
それから、オーディションの2日前に「マクベス」全幕見てこいって言われて、当日その場で指定された箇所を指揮を見て弾かされたよ。

竹中
オーケストラのように、オーディションで弾かされる伝統的な箇所のようなものはコレペティにもあるのでしょうか?

吉澤
あると思うよ。本にはなってないと思うけど。ボエムの2幕とか有名みたいだね。オーディションの時は、オーケストラの部分だけではなくて、ソリストの部分もひかなければならないから。目がどのパートを追って、どこを選んで弾くのかを審査されたみたいだね。そして合格後、トライアルがあったの。オーディションに合格した4人が6か月のトライアル。

平野
うわー、嫌だね!雇う方にとってはとても意義のあることだけど。。

竹中
半年拘束されて、バイバイ、ってこともありうるんですよね。。

吉澤
しんどかったよ。仕事の前日にいきなり演目を伝えられたりして。その頃私は全くレパートリーがなかったから。演目を伝えられてから一晩で準備しなくちゃいけなかったんだよね。

竹中
そんな6か月を!痩せました?

吉澤
覚えてない(笑)しんどかったのだけは覚えてる。それが毎回毎回だからね。一回も気が抜けなかったよ

竹中
外国人としてウィーン国立歌劇場のコレペティの席を得るというのは、どのくらい大変なことなんでしょう?

吉澤
外国人としていうよりアジア人としてという意味かな?私の場合は合唱のコレペティだけど、ソリストのコレペティは欧米人ばかりだよ。イタリア語、ドイツ語、フランス語などオペラで使われる言語ができる人。みんな最低3,4か国語が話せる人達だよ

竹中
日本人であることの強みって、、、人に気が遣えることくらいですかね・・?

吉澤
あはは。コレペティやってる人は、日本人でなくても気を遣える人が比較的多いよ。(笑) その中でも合唱コレペティは、日本人には悪くない仕事なんじゃないかな。

竹中
チームの仕事ですものね。

吉澤
真摯に仕事に向き合う性質も一緒に働く相手として好まれる。その性質が災いして、損する事も多々あるけど。(笑)

竹中
さゆりさんのオーディションはいかがでしたか?

平野
大学の公募の時は、必須が初見、歌手のコーチング、時によってピアノのソロを弾かされる時もあったよ。

竹中
コーチングする曲はたくさん用意しなくてはいけないんですか?

平野
直前に10~15曲くらい課題が出されて、当日、教授・未来の同僚となるコレペティトュア・生徒の代表の前で用意された学生のコーチングをさせられるのよ

竹中
過酷!

平野
劇場のコレペティトュアの公募もほぼ同じ内容で、それ以外に指揮に順応に弾けるかチェックされたりしたな。ここでも初見は重視されて、シュトラウスの「薔薇の騎士」の序曲や間奏曲、フンパーディンクの「ヘンゼルとグレーテル」の魔女の騎行みたいな難しい部分を弾かされたりするよ。テクニックを見られるときは、バラの騎士のようなすごく難しいオペラの間奏の部分を弾かされたりとか。あとは、オーディションの直前に10曲から15曲くらいの課題が出るのでそれを準備して行って、劇場が用意した歌手と一緒に合わせをする過程を見られたりとかもあったかな。ソロは、ある時もある。でも、どこでも重視されたのは初見かな。

竹中
雰囲気ってどうでした?

平野
悪いよー(笑)

竹中
雰囲気の良いオーディションとか、まあないですよね。どれくらいの人が応募するのでしょう?

平野
ウィーンだったら何百単位かな。そこから書類で振り分けられる。1次試験に来るのは多くて15人くらいかな。オーケストラってもっと多いでしょ?

竹中
はい、もうちょっと多いことがほとんどですね。招待されるのが50人くらいですけど、実際に来るのは20人から30人くらい。今はオーディションの応募も、インターネットのボタン一つで簡単になりましたし、とりあえず応募しているだけの人もたくさんいますからね。オーケストラの場合、2次に進むのは大体5人以下ほどになるのですが、コレペティの場合はどうなのでしょう?

平野
歌手のコーチング、すなわち実際にコレペティをする時間だけでも1曲10~15分あって、それが2,3曲なのでトータル1時間はかかるよね。

竹中
えっ!そんなに!

平野
そうだよ。初見も弾かされるし、生徒をコーチングする様子も見られる、だから招待できる人数に限りがあるのよ。

竹中
オーディションの時間はオーケストラよりずっと長いんですね

平野
コレペティってとにかく曲をたくさん知っていて、初見がきくことが大切なんだよね。あとは言葉の才能がある人や、歌手や演出家、指揮者、教授といった同僚たちと一緒に仕事をする上で円滑材になれるような、フレキシブルな人柄は重宝される。

竹中
オーディションはカーテン審査でしたか?

平野
ううん

吉澤
コレペティのオーディションは、どっちかというと、その「人」が大事なのよね

平野
学校だと、教授やコレペティトュアたちは将来の同僚を探すわけだし、生徒会の代表も立ち会うよ。生徒さんがこの人とはちょっと、って言ったら、やはり採用されない

竹中
オーケストラと全然違いますね。オーケストラは弾けることが全てなんだけど。もちろん、そのあとに試用期間はあるんですけどね

平野
それは私たちにはないのよね。試用期間1か月だけだから

竹中
吉澤さんの6か月のトライアルのこと考えると、大分楽ですよね

吉澤
あれは特別だったと思う

平野
今はどこも経費削減で、期間契約ばっかりだから正式雇用になるのはどこも大変よ。

竹中
オーケストラより厳しいかも

平野
わたしは11年前グラーツ音大の声楽学科で産休の人の代理で雇用されて、2年前ようやく正契約になったんだよ。大学もグラーツからウィーンへ移ったり、科も教会音楽学科や教育科などをさまよったり、、、なかなか珍しいケースだと思うわ。

竹中
それまでは、期間契約で働いていらっしゃったのですか?

平野
1年ごとに更新される契約だったの。だからいつ切られてもおかしくなかった。私の場合はなんだかんだ更新し続けられてこられたけど

竹中
オーストリアって一定期間、短期契約を継続しつづけたら、終身雇用で雇わなければいけない決まりがありませんでしたっけ

平野
私の場合は、なんだかんだ大学や所属する科が変わって、ずっと短期契約の更新が続いたのよね。そんな風に何年も内部で働いていても、どこかのポジションが空くと、外部の人たちと一緒にオーディションを受けなくちゃいけない。コネだけで入り込むことは今は難しくなったんだよね

竹中
厳しい世界ですよね。。オーディションで受かったか落ちたかってどのように伝えられるのですか?オーケストラですと、大抵その日その場でわかったりするのですが

平野
私たちは電話か手紙かな。

吉澤
電話のときは、オーディションのフィードバックとかくれて良いよ。落ちても、いい演奏をしていたら、人が足りない時に仕事をくれたりするので、無駄にはならないオーディションもあるのよ