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photo by Ryan Forsythe

 

生き物とは何か。こんな疑問をいだいたことはあるだろうか。

わたしたちは、「生物とは何か」と改めて考えるまでもなく、生物と非生物を区別することができる。こうして思考している私は生物だし、キーボードを打つのを邪魔する猫も、窓際に並んでいる観葉植物達も生き物だ。けれど、温かいコーヒーが入っているマグカップや、質問を問いかければ答えてくれるがスマホは生き物ではない。だから、わざわざ、「生物とは何か」と疑問に思う必要もない。

しかし、本当に、私たちは生物と非生物を区別できているのだろうか。例えば、今朝食べたヨーグルトに入っていた、おなかに優しいビフィズス菌達や、今夜飲む日本酒造りに欠かせない、酵母達。これらは生物なのだろうか。あるいは、インフルエンザやエイズといった病気の原因となるウィルスたちは、生物と言っていいのだろうか。

 

生き物とは何か。この問いは、わかるようで、よくよく考えてみると答えが曖昧になってしまう問いかけだ。そして、それは当然なのだ。「生物」と冠した学問、生物学の世界ですら、「生物とは」という問いかけが、最新の科学技術を使って、日夜研究されているのだから。

生物という現象は遠くから見ると理解できているようにみえるが、それがどういう仕組みで発生し、維持され、そして受け継がれ、さらに進化するのか、詳細を突き詰めるほど、未解明な領域が広がっている。そして、この未解明な部分を明らかにするなかで、生物とは何か、という本質を理解しようとする学問領域が、生物学という学問の一面なのだともいえる。

 

ただ、生物とは何かという問いかけに明確な回答はまだないものの、ホールディンスというイギリスの生理学者が残した言葉は、この問いかけを解決するための、大まかな道筋を示しているように思える。

“Active maintenance of normal and specific stricture”

「(生物とは)正常で特異的な構造を積極的に維持するもの」と、ホールディンは定義した。難解で抽象的な言葉のようであるが、なんとなく、生物という現象をあらわしている言葉に感じられないだろうか。そこで、今回はホールディンスの言葉を道しるべに、生物と何かという問いかけに接近してみよう。

 

生物を構成する最小単位、細胞

哺乳類や昆虫者、植物、微生物といろいろな形をしている生物だが、そんな生物に共通する最小の単位は「細胞」である。わたしも、猫も、虫も植物もすべて、小さな細胞が寄り集まってできているのだ。

いやいや、生物の設計図ともいわれる遺伝子が、生物の最小単位なんじゃないのか、と考える人もいるかもしれない。

しかし、遺伝子を細胞から取り出し、外の世界においておくと、あっという間に分解されて、壊れてしまうのだ。ホールディンスンの定義の中の「Active maintenance」という定義には残念ながら当てはまらないので、生物の最小単位とはいえない。一方、細胞は、環境さえ整えてあげれば、フラスコ内やシャーレの中でその構造を保ち、時に増殖(分裂)しながら、培養することが出来る。まさにホールディンスンの定義のとおり、特異的な構造を、積極的に維持している。

つまり、細胞が生物の最小単位であるといっても、問題はないようである。そこで、ここでは、生物の最小単位である細胞から、生物とは何かを考えてみることにしたい。

 

細胞とは

細胞の細かい構造を見る前に、まずはその種類を紹介しよう。細胞にはいくつか種類がある。まずは、細胞の中にDNAを包み込んだ核と言われる球体上の構造があるか否かで、

①原核細胞
②真核細胞

に分けられる。

原核細胞は細胞の中に核はない。そのまま細胞の中にDNAが漂っていて、真核細胞に比べるととてもシンプルな構造をしている細胞だ。そして、原核細胞は細胞一つが一つの生物だ。そんな生物いるのかと首をかしげる人がるかもしれないが、実に沢山地球上に存在している。大腸菌や酵母、ビフィズス菌などの細菌がこの代表選手たちで、小さいがその数でいえば、地球上でもっともはばをきかせている生物たちだ。

一方、真核細胞は細胞の中に核を持っていてその中にDNAをしまい込んでいる。そして、原核細胞にはない、いろいろな器官が細胞の中にある。例えば、ミトコンドリアやゴルジ体といった、昔生物の時間に金たかもしれないいろいろな器官がごちゃごちゃと一つの細胞の中に詰まった構造をしている。これらのいろいろな器官を細胞小器官というが、この細胞小器の一つ、葉緑体の有無で、真核細胞はさらに二つに分類される。

葉緑体をもつ植物型の真核細胞と葉緑体を持たない、動物型の真核細胞だ。

以上のように、細胞は全部で大まかに分けると3種類ある。ちなみに、私たち人間は60兆個の細胞からなるといわれているが、そのすべては動物型の真核細胞に分類される。

 

さて、一口に細胞といっても3つの種類があり、それぞれ異なった特徴や性質をもっているが、どの種類の細胞にも共通した特徴が大きく三つある。

一つ目は、細胞膜といわれる薄い膜で外界から己を切り分けていること。

二つ目は、DNAによって細胞が正常に過ごせるように活動をコントロールしていること。

そして最後に、酵素によって細胞の機能を維持していることだ。

 

そして、この三つの特徴こそが、生物とは何かを説明しているように私は思う。次回は、この三つの特徴から、生物とは何かを考えてみたい。