photo by Kreepin Deth
日本では「ヘビメタ」という言葉を聞くと失笑する人が多く、完全に「イロモノ」「ゲテモノ」扱い、これ定番っす。
私は日々、日常ではこの話題を出さないように出さないように、努力しているかんね。下手すると社会人としての基本的人格を疑われかねないかんね。いやほんとに。
…と思っていたら、日本人のみにあらず。
先日シカゴから来たアメリカ人男性にうっかり「私はメタルミュージックが好きです」と言ったら、それまで真面目な顔をしていたのに「ふっ」と一気に表情がほころんだ。もしかしてそれは「失笑」? えっ本家アメリカですらそれ? メタルミュージックを愛する人=メタラーは、地球規模で「鼻つまみ者」であることをしみじみと痛感した次第。
とはいえ、全世界でこれまでにアルバムセールス総数が1億枚という、もはや数字だけ見ればイロモノとは言い難い。メタルミュージック界の雄の中の雄、雄っていうか番長、番長っていうかもはやモンスター、「メタリカ」。
(モンスターズ・オブ・ロック1991 inモスクワより)
デンマーク生まれのラーズ・ウルリッヒと、ロサンゼルス生まれのジェームズ・ヘッドフィールドの二人が中心となり、1981年に結成されたヘビーメタルバンドっす。
ボーカル&リズムギター担当のジェームズは生い立ちの複雑さのせいなのか、見た目の派手さとは裏腹にガラスの心の持ち主。一方「メタル大好きオタク少年」がそのまま大人になったよなドラマーのラーズは、自らが優れたプレイヤーというよりは、プロデュース能力に長けているタイプ。
この二人の元に、天才肌で兄貴分のベーシスト、クリフ・バートンが加入したことで化学反応が起き、独創的な楽曲が生まれたように見える。実際この頃の作品に比べ、後年の曲は少々見劣りがするくらい。
もう一人のメンバー、デイヴ・ムステインは素行の悪さで早々にバンドを追い出されギタリストのメンバーチェンジとなるのだが、このことにずっと恨みを抱き、最近になってようやくメタリカ側と和解したことが話題にもなったほど。
このように始めから何やらネタの萌芽満載、波乱含みのスタート。
と思いきや、さらなる波乱。
2枚目のアルバムくらいでどんどん売れ始め、忙しくなってきたぞーという登り坂のところで、キーマンであるクリフが事故死する。
それも、ヨーロッパツアーのため皆で乗り込んでいたツアーバスが路面の凍結で横転、窓から投げ出されたクリフがひとり、バスの下敷きになり即死。…という悲劇だよ。
こんなおっそろしい出来事に見舞われたらメンタルがやられ、しばらく活動休止でもしそうなものなのに、すぐにオーディションを行い、新しいベーシストを補充し、バンド活動を継続した。
この素早さはすごい。
言うても当時のメタリカのメンバーらは皆まだ20代の兄ちゃんなわけでありますからして、すかさず話し合いの場を設け、バンド継続の道を探る手助けは、マネージメント会社「Qプライム」の主導が大きかった模様。
ここでハッキリと申し上げると、メタリカはとにかく
「ライブをやるバンド」。
何しろQプライムの創設者でもあるメタリカのマネージャー、ピーター・メンチとクリフ・バーンスタインは真の音楽ファンで、プロモーションビデオや安っぽいメディア出演で売ろうとするのではなく、とにかく「ツアーをやるべし」が信条、その姿勢がメタリカ側の意向とも一致。
彼らは長年に渡る強固な「チーム」なのである。
島国に住む我々日本人のやり方だと得てして、利害関係でついたり離れたりの「グループ」に過ぎないことが多く、彼らのチームワークには心底羨ましさを覚えてしまう…。成功し続けるヘビーメタルバンドの現場が決して個人行動ではなく、「チームワークなのだよ」と説明して、何人の日本人がすんなり納得するのだろうか。
さて、バンド継続は成功するも、精神面ではクリフ・バートンの死から立ち直る暇も無いままに突っ走った、中でも1991年リリース・5枚目のアルバム売り上げは現在までに世界で3000万枚以上という快挙を成し遂げる。
もろもろのひずみは新ベーシストのジェイソン・ニューステッドに集中、どうやら苛めの対象のようなことになってたらしい。サブボーカルのデス声がいい感じだったというのに、ジェームズにどやされるようにして残念ながらジェイソン脱退、またもやベーシスト探し。
過程は、2004年公開のドキュメンタリー映画『セイント・アンガー(邦題「真実の瞬間」)』に詳しい。
新アルバムのメイキング撮りも兼ねて予測のつかないままに収録し始めたところ、ジェームズは急性アルコール中毒で長期リハビリ施設入所するわ、往年の仇敵(?)デイブ・ムステインまでもご登場、高給取りのカウンセラーを投入するわ、口喧嘩・詰りあい、尻の毛まで見せる勢いのすんげえドキュメント映像。
嗚呼、人に歴史あり、ヘビーメタルバンドに悲喜こもごもあり。
冒頭で申し上げた通り、日本のみならず全世界的に、ヘビーメタルはとかくイロモノ扱いだ。
音楽シーンの先頭をひた走り続けるのは容易ではないことは想像がつくというものでありましょう。
それを現在もまだ成し遂げている最中のメタリカというモンスターは一体どういう音楽性で生き残ってきたのか?
「ファンの期待に応える楽曲づくり」なる、毎回毎回「自分で自分をコピー」したような音楽づくりを、ファンを裏切らないように、地道ぃ〜に積み上げてきたのでは? とか思ってしまうのは、島国根性のサガっす、サガ。
このバンドの特徴は、ファンクラブを100%自分たちの手で運営してしまうほどにえらくファンを大事にしているにも関わらず、常に「つくるものはファンを裏切ってきた」ことに他ならんからっス。辛酢。
メタラーというのは大抵「決まり切ったヘビメタの定石」を繰り返し繰り返し聴きたがるもんでごわす。ええ、そういうもんらしいでごわ酢。
その「当然の期待」を裏切る裏切る。
前作でせっかくヒットしているスタイルを、次のアルバムで音楽性を根本的に変えて新しいことをやるもんだから、その度にファンが激怒したり、同業メタルバンドから「メタリカは終わった」とか揶揄されたり。
それでも
「まず古い自分をぶち壊し、聴いたことのないものをつくる」
という向上心よ、あっぱれなるかな。
決して軸がブレているということではありません。
常に流動しようとする苦悩と昇華。
絶え間ない研鑽。
おのれを破壊し続けるしぶとい精神力。
(と、それを支えるチームワーク。)
ああ、これだよ! ずっとビッグバンドでいられる秘訣はさあ!
スタイルを変えるとすぐに干される島国根性とはえらい違いで恐れ入る。
1万年たっても我々には到達できそうもない。