「プロパガンダ」動画の変異と弊害

このような動画による「プロパガンダ」は、今に始まったことではありません。動画というもののメディア特性として、視覚と聴覚を直接刺激できるということがあります。そのため、人々の心に一番痛切に訴えかけることのできる媒体であると、動画は昔から注目をされていました。第二次世界対戦時には、アメリカのテレビでは日本人を残虐な野蛮人として描かれ、自国民を煽動し、戦争に向けての闘志を持ち上げていました。同様のことがナチス・ドイツでも行われていました。

これは第二次世界大戦中にナチス・ドイツが自国民に向けて放送した番組です。戦況を伝える内容で、ドイツ軍が英雄的に描かれています。戦況をよく伝えることで、自国民の戦意を維持していました。同様の「プロパガンダ」は当時の日本でも行われていました。日本では、主にラジオが使われていましたが、戦争中に政府が国民に伝える情報の内容はかなり慎重に吟味されていたことがわかります。

このように、世界的に見ても、歴史的に見ても、「プロパガンダ」として動画を配信することは珍しいことではないのです。

一方で、昔の「プロパガンダ」動画と格段に変わってきている点があります。それは、動画を実際に配信する媒体です。数年前までは、動画を目にするのは映画館やテレビというものが主流だったかと思います。映画館やテレビは、絶対的権力をもったマスメディアが一般大衆に向けて情報を伝達するツールでありました。そのため、皆が一様に同じものをみて、同じような事を感じるように作り変えられていることが往々にありました。また、権力者しか配信ができず、権力を持たない人々の声は反映されない傾向が強かったのです。

しかし近年動画を目にする場として、インターネットが登場しました。インターネットを使った動画配信は、映画館やテレビとは違って、ひとりひとりが持っているデジタルデバイスに向けて配信を行っています。動画を見る、見ないという選択が個々人に委ねられたということが言えるかと思います。

それに加えてインターネットの世界では、だれでも発信者になることが可能です。そのため、目にした動画を自分の感想を交えて発信することが容易になりました。わかりやすい例で言えば、TwitterやFacebookで見た動画のURLをシェアし、自分の意思表示をすることができるということです。前述した『SEALDs』の動画も、安倍政権の安保法案解説動画も、マスメディアによって報じられることもありましたが、基本はインターネットを通じて個々人から広まっていきました。結果として、動画の消費母体の変化は政治に対する議論の場を生むことになったのです。

 

「プロパガンダ」動画がネットで配信されることの弊害

このような動画消費母体の変異による議論の場の形成は、現代日本における民主主義の回復であるように思えます。しかし、いい点ばかりではありません。議論を行う中で、第三者によって「プロパガンダ」が曲解されてしまう例が後を絶たないという側面もあります。

「プロパガンダ」の動画を見た第三者が感想や、背景・予備知識を加えた記事を書くことが往々にあります。民衆はこのような記事を読み、自分でその主義や思想について理解をせず、ひどい時には実際の動画すら見ることなく第三者の意見を鵜呑みにしてしまうのです。受信者である民衆は知らず知らずのうちに、「プロパガンダ」の発信者の真の意図を知らずに、またシェアをすることで次から次へと誤解を膨らませてしまうのです。これが意図しているものなのかは断言できませんが、発信者と受信者の間にインターネットの世界を介してしまったことの弊害であることは間違いありません。

 

「プロパガンダ」動画と向き合うためには

前述した通り、「プロパガンダ」はその個人や団体の政治的な「メッセージ」であります。「メッセージ」というものは、間に人を介せば介すほど誤って伝わるものです。伝言ゲームを考えれば想像に難くないと思います。そのため、「プロパガンダ」の動画を見る際は、『発信者から直接受け取る』ことが最善かと思います。第三者を介した二次的な情報で満足するのではなく、情報ソースを辿ってみてください。発信者から直接情報を受け取り、その上で自分の考えというものを発信し、同様の手順を踏んで自分の考えを持った人と議論を交わす。これもある種の「メディアリテラシー」かもしれません。

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さえがみ
迷える就活生WEBライター。 大学で専攻している社会学や、いろんな現場に潜入して得たことを中心に記事の執筆をしています。趣味は映像制作とノマドカフェ探索、飲み歩き。 社会学/教育学/メディア論/都市論/受験/就活/映像制作/サブカル/マンガ/音楽/映画/カフェ/酒/温泉 http://uraomote.hatenablog.com/