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photo by noir gothly

 

「mixi」「スタービーチ」・・・という名前を出しても、10代や20代の方はわからないかもしれない。

その昔(といっても今から15年前程前)、招待されないと入会できない「mixi」や、有料会員しか書き込めない「スタービーチ」が人気で、誰しもがその会員になろうとした時代があった。その時代はわりとすぐに終わるのだが、後続のSNSが急速に発展。ガラケーで無料で利用出来る「モバゲータウン」や「GREE」が流行し、今では「LINE」が主流だ。専門的な知識が問われるツールの壁もなくなり、小学生から高齢の方まで、オンライン上で気軽にコミュニケーションを取れる世界になっている。

 

高速なインターネット環境が整備されたこともあって、動画を使ったコミュニケーションも盛んだ。日本ではYoutubeとニコニコ動画が特に有名であろう。

特に人気があるのは、好きな歌手の歌を自分で歌う動画(いわゆる「歌ってみた」モノ)や、ヴォーカロイド(YAMAHAの音楽発声ソフト「初音ミク」が有名)に歌を歌わせたり、市販やフリーのゲームソフトをプレイしながらその様子を実況するゲーム実況などだ。

 

そうした動画を見ることは楽しいし、コメントなどで視聴者と動画投稿者が交流することは、とても価値があることのように思える。

しかし、今回とりあげたいのはそうしたポジティブな側面ではなく、ネットでの「強者」による「弱者」の支配だ。特にオンラインゲームでの事例を紹介したい。

 

 

私が参加してきたオンラインゲームや、あるいは見てきたゲーム実況動画の配信者の中には、プレイを楽しむことを目的としない、極めて攻撃性の高い人たちがいた。もちろん多くのプレイヤーや動画投稿者は純粋にゲームやコミュニケーションを楽しんでいるのだが、中には、おそらくはストレスを発散する目的で、他者を傷つけるためにプレイをしている人が一定数存在している。

使い古された言い方かもしれないが、彼らは、ネット上では別の人格を持っている。

 

 

「人格」という言葉を使ったが、その人格はゲームの内容によっても違っているかもしれない。

試みとして、2つのゲームジャンルに分けて考察をしてみたい。

 

まず一つ目は、ドラゴンクエストやファイナルファンタジーの類の、「レベル」という概念があるゲーム。(普段あまりゲームをプレイしない方でも名前くらいは聞いたことがあるだろう)。敵を倒すことによって経験値を貯め、一定程度の経験値がたまるとレベルが上がる。レベルがあがると、プレイヤーが操作するキャラクターが「強くなる」、というシステムだ。

この様な「レベル」概念があるゲームのオンライン版では、経験値が中央のサーバーで管理されているため、「プレイ時間が長いプレイヤー」(ネットスラングでは「古参」と呼ぶ。)が圧倒的に有利だ。

 

ただし、例外もある。それが、ゲーム内組織の管理者だ。

ゲーム内組織は、「ギルド」や「クラン」と呼ばれるものが多い。

http://dic.nicovideo.jp/a/%E3%82%AE%E3%83%AB%E3%83%89

http://kinoko-huumi.com/guild_clan

 

組織内の頂点に君臨するのが「マスター」、その補佐役としてサポートするのが「サブマスター」である。サブマスターは会社組織での中間管理職と言えるだろう。(ゲームの中にまでそんなものがあるのだ。)

 

一時期テレビなどで、メイプルストーリーというゲームのCMがよく流れていた。メイプルストーリーのような、現金をウェブマネーに変換し、ゲーム内のアイテムを購入することで着せ替えなどを楽しむゲームでは、このような組織はあまり生まれなかった。ゲーム内のレアなドロップアイテムと同等価値、もしくはそれ以上の価値のあるアイテムが、現金でしか獲得できないシステムだからだ。現金さえ払えば、何の苦労もなく素晴しい能力のついた武器などが簡単に入ってしまうため、資金さえ有れば誰でもゲームを優位にすすめることができるのだ。

 

一方で、そういった課金システムがなく、またパソコンのスペックがある程度必要とされるようなコアなゲーマーが集まるゲームでは、自分のキャラクターの育成や育成に必要なモンスターの狩り場所の取り合いとなり、次第に雰囲気が殺伐としてきやすい。私のプレイしていたゲームではそこから、「弱者」と「強者」の間に溝が生まれていた。その溝により、弱者は強者に組織内から追放されないように「媚入り」、ゲーム内でも現実社会の様な立ち回りが必要となる。

 

そもそも、なぜゲームの中にこのような組織ができるのだろうか?それは次のように説明することができる。

 

オンラインゲームであっても、最初は1人でプレイを始めることが多い。そしてチャット機能などがあったとしても、いきなり赤の他人に話しかけたりするのはネット上でもなかなかハードルは高いといえる。ただ、ゲーム内でさまざまな行動をとることにより、非言語的なコミュニケーションをとることはかなり気軽にできる。挨拶のジェスチャーのようなものが用意されていたり、辻ヒーラーのような行動もそうであろう。

 

そういったところから徐々にゲーム内に「知り合い」が増えていき、序盤を少し過ぎたあたりからは、固定メンバーでのプレイも多くなる。それが大きくなっていくと、同じ目標を持った人達を集めて組織が出来ていくのである。組織の大きさは様々で、5人程度のものもあれば、大きい組織では50人を超える組織も珍しくない。組織が大きくなってくると、組織を統制する必要から、前述のような「マスター」や「サブマスター」が必要になる、という仕組みだ。

 

組織ができると、ルールができる。例えば、「ノルマ」というものがあった。

ゲームでは、定期的にPVP(Plaery vs Player。プレイヤーや組織同士の戦争ゲーム)が開催されるのだが、「次のPVPまでにレベル50まで上げなくてはならない」というようなノルマが有った。味方のレベルが高いほうがPVPに勝利する可能性が高まるからだ。

 

ゲームは楽しむもの、であるはずなのに、なぜノルマなどこなさなければいけないのか(そんな必要などないはずなのに)。すでにゲームに飲み込まれいた私には、思い及ばなかった。そして組織内での自分の地位と名誉を必死に維持する事だけに必死だった。また、可愛がっている格下のメンバーから慕われるのが気持ちよかったのだろう。

 

上手く強者に取り入ることができた人は、強者と一緒に効率的かつ安全にノルマをこなすことが出来る。しかしそれができない性格であったり、過去に失言をしていたりすると、ノルマを達成することは難しい。そうなると、追放とまでは行かないが、そのノルマを達成するまで組織内の強者メンバーに叱られることも珍しくない(まるで営業職のノルマ未達成のように)。

 

メンタルの強い人なら、ギルド内のチャットで暴言や追い込みの言葉を受けたとしても、そこまで気にせずに生活を続けることができる。しかし、ゲーム世界から抜け出せずに生活の主体がゲームとなり、日常生活を捨ててしまう人もいた。ある人は、仕事を辞め貯金を切り崩しゲーム生活を。また、ある人はゲームでの名誉のために学業を投げ捨てた。私は当時キャバクラでバイトしていたので、(短時間で高給ということもあって)ギリギリ生活を維持しながらのゲーム依存で済んだのだが、もしもフルタイムで働いていたとすると、ゲーム内の居場所を確保する為に躍起になり、確実に仕事を辞めていたであろう。