生涯の伴侶に選んだ理由?
一日中一緒にいても疲れないからかもだろうか。
包容力があって、優しいところも好きだし、自分よりずっと年上なせいか、物知りで、常に未熟な私を支えてくれるところも好きだ。
でも、別に一目ぼれだったわけではない。
見た目は結構地味なので、そんなにタイプではなかった。一度短く付き合った後、別れていた期間もあった。
でもその後、偶然再会することになったとき、運命を感じたのだ。
。。。。。
あ。
楽器の話です。
photo by Alice Carrier
私たち器楽演奏家にとって、楽器は単なる「商売道具」におさまる存在ではない。
それは、オーディションやコンクールで戦いを共にする戦友であり、喜びや悲しみを共有するパートナーのような存在。
今日は、そんな私たちのパートナー、楽器のお話。
「でもお高いんでしょー?」なバイオリン
まだ日本のオーケストラで働いていたころ、音楽教育の一環で幼稚園や小学校で演奏をする機会が度々あった。
演奏後に大抵質問コーナーというものが設けられていて、そこでよく質問されるのが、
「先生のぉ バイオリンはぁ いくらなんですかぁー?」
最近の子供たちは、なかなか現実的である。
バイオリンの値段は、ピンキリである。
一度、とある通販サイトで約一万円のバイオリンセットを注文してみたことがある。
弓もケースも松脂もぜーんぶついて、しかも送料込みで一万円である。
こんなもの、音が出るはずがない。きっとオブジェ用なのだ。
出ないよね、出ないでください。。
半ば祈るような気持ちで、恐る恐る弾いてみると、
。。。普通に弾ける。。。
なんというか、妙な敗北感である。
そう。一万円のバイオリンも普通に音が出るのである。
ではなぜ、ピンのほうのバイオリンはとんでもない値段がするのだろう。
クラシック音楽に興味がない人でも、ストラディバリウスという名前はどこかで聞いたことがあるのではないだろうか。
バイオリン=ストラディバリウスのような公式が頭の中でできている人も数多いらしく、
「竹中さんのバイオリンは、あれですか?ストラディバリウスですか?」
と聞かれることがよくある。
そうだったら嬉しいが、残念ながらそんなわけないのである。
ストラディバリウスのような「名器」と呼ばれるバイオリンは、何億円もするのが普通であって、個人で所有できる人は、よっぽどのお金持ちである。大抵は財団や企業などが保有していて、コンクールの勝者など、優秀な奏者に貸与しているのだ。
バイオリンは美術品、骨董品としての価値も持ち合わせている。古い楽器は、再び生産することができないため、値段は吊り上がっていく一方なのである。
どうやって決まる?楽器の値段
バイオリンの値段は、制作された年代、作者、国、サイズ、作り、傷の有無など様々な条件によって変わってくる。
人気も値段も高いのが、1800年以前にイタリアで作られたバイオリンである。楽器に大きな割れなどの傷がない限り、数千万円は下らない。
人気の理由はやはり、その音色だろう。200年以上たった楽器は木材の経年変化で、独特の甘く高貴な音色を持っている。
このタイプの楽器を購入しようとするときに気を付けなくてはならないのは、そう、贋作が存在するということである。
バイオリンの表板にはfの文字をかたどった穴が二つ開いている。そこをのぞき込むと、大抵のバイオリンの裏板には、ラベルが張り付けられているのが見える。そのラベルには、製作者や工房の場所、制作年などが書き込まれているので、本来ならばこれでどのようなバイオリンなのか判断することができるはずなのである。問題は、このラベル、偽物が貼られているということが大変多いということだ。
音楽家も、コレクターも、贋作をつかまされることがないように、購入の際はバイオリン職人や、信頼できる楽器屋などに楽器を持ち込んで鑑定してもらったりする。ちなみに、私は「ストラディバリバリ」と書いてあるラベルの貼られたバイオリンを見たことがあるが、全てがこうも潔い偽物であるわけではない。贋作も本気で作ってあると、とても精巧にできているため、鑑定が難しい。あっちの店とこっちの店で出てきた鑑定結果が全く違ったりして、疑心暗鬼、もう誰も信じられなくなったりする。
それを防ぐために、もともと信頼できる職人や楽器屋の鑑定書がついた楽器を購入するることが勧められるのだが、これもまたどこまで信じてよいものやら微妙である。金儲けのために、偽の鑑定書を書きまくって摘発された楽器屋だってあるのだ。
かといって、自分で鑑定しろと言われても、そんなことができる人はそうそういない。できてたら今頃やり手のディーラーになって左うちわで生活している。
200歳以上のオールドの楽器に比べたら、新作の楽器はずっと安く手に入れることができる。(とはいっても数百万円はする)現在では、どんな楽器が良い音がするのか、ということは研究されつくしていて、そのノウハウにのっとって楽器が作られるのだから、丁寧に作られている新作の楽器は、素晴らしい質のものが多い。製作者が生きて証明してくれれば贋作を掴まされる心配もないし、できたてホヤホヤなので目に見えない傷や割れを疑う必要もない。
少ない資金で質の高い楽器が手に入るので、モダンの楽器は気が楽だし、お買い得である。楽器の製作者が、制作コンクールなどで賞を取ったりした日には、楽器の価値も跳ね上がる。
いいことずくめのようなモダン楽器だが、それでも今だオールド楽器の人気の方が高いのが事実である。
なぜなのか。答えるのは難しい。
オールド楽器の音色には人を惹きつける魔力が潜んでいる。
そうとしか説明がつかないのである。