ーカレーの出会いがインドに

 

若い頃は毎日12時間くらい音楽ばかりやっていたんです。東京のコンクリートジャングルにいたんじゃいい音楽はハートから鳴らないぜ!とか思って、阿寒湖畔にシーズンバイトに行ったら、そこの木彫り屋さんの仲間内にインドが大好きなシタール弾きに会いまして、インドに行くことになったんです。ちゃんとカレーをやったのは、25歳でインド料理屋に入ってからなんで、その頃はまだやっていなかったです。

 

ー音楽でインドに行って感銘を受けたと

 

感銘は言い過ぎですけど。25歳でバイト探した時に、好きなもんと言ったらコーヒーかカレーとなって、単純に面接に受かったのがインド料理屋だったんです。本当に単純な理由です。

 

ーインドにはどのくらいいたんですか

 

全部では1年半くらいじゃないですかね。何度か行ったり帰ったり、断続的に。ゴアでは3ヶ月くらいチャイ屋さんに住まわせてもらったりして。

 

ーえ!お店をお手伝いされていたんですか?

 

チャイ屋さんに入り浸っていたら「お前どこ泊まっているんだ」「あそこのゲストハウスだよ」「ちょっとこい」と。着いて行ったら、籾殻みたいなのが山積みされた部屋があって、「ここを掃除するからお前ここに泊まれ」って言うから「オッケー」ってやっかいになりました。俺、原チャリ借りているツーリストだったんで、「おいゴザ運んでくれよ」「いいよ」って運びものをしたりとか。そんなファミリー付き合いをしていただいて。

 

ーカレーは習わなかったんですか?

 

食べてはいましたが、習ってはいないですね。でも、作るところは見ていました。ゴアの頃はインド料理屋で働いていたので、ガスコンロを借りて自分で作ったりもしていたので。本当に特別なもんじゃない。店長からキャンプに行く時に一回教わっただけの、本当にシンプルなカレーレシピですけどね。ターメリック1のチリパウダー1のクミン2の、コリアンダーが4か8くらいの、もうすごいシンプルなカレーをよく作って食べていました。そんなもんですよ。全くカレー技術者じゃないので。

 

ーじゃあ、あとは本とか食べ歩きとか

 

そうですね。本や食べ歩きですね。あとはネットのレシピとか。

 

ーそういうのも見るんですか?

 

見ますね。10個くらいレシピを拾ってきて、その中から自分のバランスはこんな感じかなって調節していく感じになりますけど。

 

ー意外です。プロはあまり素人のレシピは参考にしないかと

 

お店で習っても、誰かのレシピを見て習っても、結局一緒だと思うんです。スパイスの本質的な扱い方はインターネットじゃ習えないので、そこはお店に入らないと学べないかもしれないですけど、基本的なレシピは何も変わらないと思います。玉ねぎにどれだけ火を入れるとか、スパイスにどれだけ火を入れるとか、どのタイミングで何を入れて、どんだけ水分抜いてとか。そのすべてのタイミングや火加減で決まるんで、どこで習っても一緒だと思います。

 

ーそういえば、インドカレー屋で修行したのに、ナンは出さないですよね

 

ナンは出さないですね。コテコテのインド料理はあんまり興味ないというか、インド料理マスターになるのはインド人に任せておけばいいやと思っているんです。もちろんベースは確実にインド料理なんですけど、本来一番好きなのは日本食だし、いろんな国の料理の「あ、いいな」と思ったところを自然にマッチングさせていけばいいんじゃないかと思っていて、インド料理マスターになる気は全然ないですね。日本人だし、ご飯がおいしくない? みたいな。そんな気軽な感じです。

 

国産鶏とカブのやさしいスープカレー(優しいスープが体にしみます)
国産鶏とカブのやさしいスープカレー(優しいスープが体にしみます)

 

ー移動販売の話に戻ると、2、3年のつもりが、結局約10年も続けた

 

なんだろうな。やっぱりお客さんがついちゃうと、休めなくもなるし続けたくもなるし、なんとなくそれで毎日過ぎちゃう。その間になんだかんだ10年でしたね。

 

ー移動販売をやめたきっかけは

 

正直、路上でやっちゃうときもあったんです。30歳くらいの頃はおまわりさんに怒られても「ごめんごめん、すいませーん」で済んでも、40近くなってくると「おまわりさんに叱られて俺は何をやっているんだろうか」とか思うじゃないですか、やっぱり。道路工事をいきなりやっていて売れない日もありますし。だんだん、そろそろいいかなーと。

 

ーだんだん気持ちが変わっていった

 

最初に一回(店舗を)探した時、いい物件が見つからなくて。ちょっと資金も足りねえかなって。移動販売をしながら富士そばでバイトをし、金もたまるかなくらいの感じて待っていたら、ここの話が来たんです。お店を開けるならやめようかなって。こっちが決まって、やめた感じですね。

 

ー車を手放した時の気持ちは

 

こんなに切ないかくらい切なかったですよ。やっぱり、いろんな車にそこそこ愛着を持って乗ってきましたけど、こんなに10年間思い出が凝縮された車もなかなかないなと思って。

 

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ーただの移動手段じゃないですもんね。

 

これで海に行ったり、遊びに行ったりもしましたし、一番遠くで名古屋くらいかな。平日はここで毎日乗り込んで出勤して、後ろの箱の中でお客さんと対応していたわけですから、思い出はものすごくありますよね。

 

ー最初におっしゃっていたお祭りやイベントにも出たんでしょうか

 

結局それは。最初に大手みたいなところに登録したら、アゲハっていう超でっかいクラブで深夜に売ってみないかっていう話が来て。いやーすいません、僕、朝起きて夜寝たいんでって断っちゃって(笑)。やる気ねーなって思いましたけど、もう30過ぎだったし、深夜のクラブで売りたいとは全然思わなくて。それだったら平日の常連さんに売って、朝起きて夜寝たいなとか思って、やめちゃいましたね。

 

ー移動販売からお店になって、実際違いますか。

 

ランチをやりながら、夜の12時くらいまでお店を開けたりするじゃないですか。もうね、死んじゃいそうなくらい忙しいです。根本的にぶらぶら音楽やってヒッピーな人間だったから、働き者では決してないんですけど、それなのに、12時間15時間働かなきゃ何もかも追いつかないという、この忙しさは参りますね。

 

ー仕込みがやっぱり大変ですか。

 

大変ですね。買い出しから含めたら、一番長いので6時間くらいかな。早いのだと1時間半くらいですけど、1品くらいしかない。だいたい平均3時間はかかるんで。2時に店を閉めて、3時まで洗い物や片付けをやったら、5時半オープンまで2時間半しかない。開店の段取りにも1時間半かかると、結局その間は1時間しかないんで、休憩中に仕込むのは無理なんです。そうすると朝早く起きないといけないけど、体も持たないし、開店当初は暇な時間でできていたものが、だんだんできなくなってきて、どうしたものかなと(笑)。

 

ー全部一から作るから、大変なんでしょうね。ブログにも「鳥を丁寧に裁くと2キロが1.2キロになってしまう」と。

 

でも、1回丁寧にやっちゃうと戻せないですよね。例えば、グレービーソースは同じで、最終的なスパイスだけちょこっと違う、7割くらいは同じな別のカレー。そういうスタイルでも出せるんでしょうけど、たぶんやっている人たちもそれが本当だとは思ってないと思う。だって、例えばカブっていう食材を取り上げて作ろうと思ったら、一から十までカブの美味しさを引き出すために、本当であればやりたいはずなんです。7割決まったカレーソースを使うというのは、僕は何か嫌なんですよ。できれば、ソイツのために作りたい。そういう思いがあるんですけど、そうも言ってられねえかなあって(苦笑)。

 

ーそうか! 言われてみれば、メニューにあるカレーは全部個性が違いますね。

 

そうありたいなとは思っているんですよ。例えば「豚バラとパインのカレー」も、パインを抜いてヨーグルトで酸味を足してチキンを入れちゃえば、チキンカレーになるんですよ。でも、それはなんか面白くないなあと。

 

ーだから、食べ飽きない。

 

本当はもっとメニューをローテーションしたいんです。もうしばらくしてメニューを書き換えられたら、メニューが3つ4つ必ずありますよという感じでローテーションしていきたい。忙しい中でも、これを出してみようと温めているメニューも何個かあるので、それらも作りながらですね。

 

ー目指すのは日本人らしいカレー?

 

でも、「日本人の」ともこだわらない。目標を定めたくないっていうか。その時いいなと思ったベストのカレーを作って喜ばれりゃいいやと。単純に居心地よければいい、美味しきゃいいとか。俺の勝手な定義なんですけど、口ん中で「美味しい」「うまい」じゃなくて、「あ〜ありがとう〜〜」みたいな、「自然よありがとう〜〜」までたどり着きたいんですよ。食った瞬間に生き物として「あ〜りがとう〜〜」って思うのが、俺の中では本来の食事だと思っているから、そういう感じ。目指すところというならそこですかね。食べたら、ちょっと体全体で幸せになれたら、そういう料理が作れたら最高ですね。

 

<取材後記>

ライモンディのカレーには、榎本さんの人柄が出ている。実際にインタビューをして、その思いがより強くなった。食材に向き合う誠実さ、食べる人のことを考えた優しさ、あるいは音楽や旅にも通じるような自由さ。豪華さとは無縁だけれど、食べると心が明るくなるような一皿が、訪れた人を待っている。

 

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<お店情報>

ライモンディ

住所   〒173-00141 東京都板橋区大山東町15-3 田中コーポ1-C

電話   03-6909-6290

営業時間 昼(水〜日)12:00〜14:30(ラストオーダー14:00)

夜(火〜日)18:00〜23:00(ラストオーダー22:00)

定休日  毎週月曜日(※6月より火曜日はディナーのみ営業)

その他  テーブル8席 カウンター6席

HP(徳丸パラダイス食堂オーナーのブログ)http://blog.goo.ne.jp/toku-para