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私が吉岡氏の作品と初めて出会ったのは2000年だった.新建築社から発刊された「新建築」2000年8月号に掲載された「古い蔵の構造体を残し新しい建築をつくる」という作品名をもつ住宅だった.吉岡氏が事務所を設立したのが2000年であるから,ごく初期の作品といえるだろう.そしてこの作品はのちに(もしくはそのつもりで建てたものであるかもしれないが)氏の事務所になったようだ.

当時,私は建築学科に通う大学生だった.建築を学ぶ多くの学生と同じように「新建築」をはじめとする建築専門誌に目を通すのが毎月の楽しみだった.作品と同時に設計者の経歴やプロフィール写真を見て,どのような経歴をたどってこの作品をつくるに至ったか人物像を垣間見るのが好きだった.専門誌に掲載される多くの作品は既に建築の世界では名の知れた建築家のものが大半で,若手がごく一部,いずれも建築系の大学や大学院を出ている場合がほとんどだった.その中で吉岡氏は作品と経歴が学生ながらに異色と感じ印象深かったのを覚えている.

前述の作品は,島根県にあった約150年前の米蔵を解体・木造の構造部分を移築し,内外装は現代の工業素材で構成されている建築物だ.氏が示したかったのは懐古的なジャポニズムでもなく,再生プロジェクトでもなく,経年変化をとげた木材を新しい工業製品と並列に扱い,融合させ,そこに生まれる面白さである.

「新しいものと古いもの,自然素材と工業素材,高級な素材と安価な素材,手づくりのものと大量生産の製品,伝統的な技法と現代のテクノロジー.この建物はあらゆる対比によって構築されている.それが,私の未来への提案である.」(掲載誌より抜粋)

紛れも無い建築物であるが,その他の掲載作品と違うと感じたのはそれが実験空間であり,常設的なインスタレーションのようにも思えたからだ.

 

資生堂ギャラリーは地下へおりる細い階段から始まる.階段を下りながら視界がぼんやりしてくる.それはギャラリー空間に充満した薄い「霧」である.内部は薄暗く,プリズムから放たれる虹色の光線が散らばって美しい.「霧」が充満している為に光線は柔らかく心地がよい.今まで経験した事のない「空間体験」がそこに広がっている.

 

ギャラリーの奥にはプリズムを生み出す装置とその裏では吉岡氏のここ10年の作品が映像で紹介されている.大量の羽毛が風によって舞う「Snow」,大量の透明なストローによる「Tornado」,結晶によって生成される椅子「VENUS-Natural crystal chair」,プリズムによる「Rainbow Church」,どれも美しく,静かで,そして驚きがある作品ばかりである.そして人工物でありながら不思議と自然を感じてしまう.吉岡氏のインスタレーションが,「美しく豊かな空間体験」を生み出す様子を目の当たりにして,建築物をつくる,という行為が目指すところの根幹もまた同様のものであり,あの日,建築専門誌で作品に出会った意味を理解したのである.

 

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