(前編はこちら)

 

器に赤のライン入ってますよね。これってこういうものなんですか

ちょっと淡い色には入れてて、濃い目のには入れないんです。

 

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これはわざと?

わざと。濃い色にラインを入れるとうるさくなるので、特に赤には合わないんで入れないんです。

昔は派手なん多かったんで入れて無かったんです。こういう仕事は古臭い年寄りのやる仕事やと昔は思ってたんで、全然この良さがわかんなかったんですけど、40越えて来てやっと深みに気づいたというかね。青磁の奥深さに気づいちゃったと言うか、だからたぶん今の20代30代の陶器やってる人から見ると、古臭い仕事してと思ってはるやろうし、僕もその頃はそう思ってましたからね。上の先生方の作家さんのやつを。

 

よくあることですよね。でも何か40って節目ありますよね。過ぎた位からちょっと変わり出したりしますよね。

仕事が20年位経つとわかってくると言うか深さをつくというか、舌の好みも色の派手さもパーンとしたのんじゃなくて、ちょっと控えめなんがね。女性の好みも変わる年頃かもしれないですね

 

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これってお箸とか作るの難しいんですか

箸はすぐ折れるんちがうんですか、スプーンとかならできるんちゃいますか。けっこうもろいんですよね陶器。

 

この筋というか形と言うかこれが良い味を出すんかな?

なるべく沢山入らないようにしたいんですよ。本数少なめで。一杯入ると煩さすぎて。

窯の温度が1250位で焼いて、翌日窯出しするんですけど、200度に下がった時に開けるんですね、開けた瞬間は模様入ってない無地なんですよ。ツルンとしてるだけで、外気に触れた瞬間からチンチンチンという音がして、これが入ってくんですよ。冷えてく瞬間に赤いベンガラという色をすり込んでるんですよ。時間が経つにしたがって、貫入と言うラインが一杯入ってくので、冷め切ったら本数が多くなるじゃないですか。そうすると赤を入れた時に網目が細かくなりすぎるんで、なるべく窯出ししてから早い間に、本数の少ない間に入れちゃったほうがうるさないので、時間との闘いですよ。

 

何個もいっぺんに焼くんですもんね

100個位は入ってるんで、窯開けてから冷めきるまでの間にだーっと作業してる。時間とのかけっこで。

 

チンチンチンって鳴るっていわはるじゃないですか。その音聞きたいわー

風鈴程爽やかな音では無いですけどそれに近いような音。僕らの器でも未だにどっかで言うてるかもしれないですよ。一生言い続ける。

 

えっそうなんですか?気温とか湿度とかそんなん関係あるんですか

あんまりないと思うんですけど、ずっと育ち続けるので、美術館にある1000年前のも未だに音してるときあるらしいですよ。夜とかお客さんいない時にどっかでチンとしてるってのは聞きますよ。育って行ってるというか、陶器は常に土と上にかかってるガラスとの闘いなんですよ。お互いの圧力が土に負けるかガラスに負けるかって、お互いがすごい引力というか引っ張り合いっこしてるんですよね。地震と同じで何かの時にどっちかが負けるんで、その時にピンと貫入という筋みたいなのが入るんですね。その時に音がチンとするんですね。地震と同じで断層と断層が闘っているのと同じようなもんです。この器がある限り一生なんですよ。細かく砕かない限り灰になっても。間隔は広がっては来ますけど、この地球が存在する限りずっと生き続けると思うんです。

 

音のする器やな。すごいな

食器棚とかにあるやつが音する時あるんちゃいますか。

 

いや~鳴っててもその音やって気づかへんかもしれへん。私達が使ってるのはそんな高い器じゃないからどうなんやろ

防水とかじゃなしに、こんな感じの筋の入ってるやつは高い安い関係なしに鳴ってますよ。

 

洋食はボンチャイナ系なんですけど和食はどうなんやろ

絵が書いてあるやつとか。

 

絵もそうなんですか?

土もんと言われるもんはだいたい貫入が入るんですよ。

土台がボンチャイナみたいな真っ白なツルンとしたやつは入らないんですよ。でも土もんのちょっとクリーム色のとか茶色とか赤いやつは大概入りますよ。そういうやつは結構しますよ。よろしければ僕が前にNHKの取材受けた時のやつがYouTubeにあって、それに音が一杯録音されてますので。

 

 

この下の部分(器の土台の部分)はちっさいですよね。不安定というか

これはラインがねこうした方が綺麗なんですよ。大きいとちょっと民芸チックになってしまってドテッとした感じになってしまう。その辺は実用と鑑賞の狭間で難しいとこなんですけど。お料理屋さん向けの器作ってはる人は安定性とかやっぱり重視ですから、割としっかりしたもん作ってはると思うんですけど。

お抹茶茶碗は特に小さいんですけどね。

 

下まで釉薬がかけてるのとかけてないのとあるのはその時の感覚ですか?

青磁の約束事みたいなんがちょっとありまして、青磁の古い名品は割と全部かけるんですよ。釉薬は結構たっぷりかけるんですよ。厚みがだいたい表が2mmあって、中が2〜3mmなんですよ。だから結構圧力がギューッと強いんですね。ここに釉薬をかけないで土を見せると、圧力のバランスが崩れてパーンと割れちゃうんですよ。極力全部塗った方がバランスが良いんですよ。

 

てことは塗って無かったら難しいってことですよね

ここを出すとバランス的に割れやすくなるというのもあるんですね。それは昔からの中国からの古い名品からの考え方なんですけど、日本は土見せと言って高台の仕事を美として見せるというのがあるんですね。ここを鑑賞の対象とするんですよ。ここを見せたい。うちの師匠とか京都の陶芸の茶道の考え方は、ここを見せるというのがあるんです。

ここを真っ直ぐにしたら良いんですけど、それをランダムにすると手業と言うんですかね、優しさというかバランスを崩してあったり、ここにも美があるんです。

食器は日常使いの使いやすい物なので、あんまり高台のとこに技入れないんですけど、ぐい呑とお抹茶茶碗とかは作品というカテゴリでして、そこはふんだんに手業をすると言いますか。ですからぐい呑とかお抹茶茶碗は値段も高いめですし、食器は箱はつけないですけど、これは箱つけてサインして売るんですよね。同じ陶器であっても格を変えてると言うんですかね。茶道具系はランクがやっぱり一段上なんですよね。

 

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(ズラッと並んだ棚の奥には昔作ってた作品がぎっしり置いてあった。)

萩風や志野風であったりするんで、本家の人には勝てない。地元にこういう良い原料があってそれで作ってはるんですけど、僕らはそれを取り寄せて来たりとか、自分の解釈でやるんで本物には勝てない。陶器は地元で取れる原料を、どう有効利用するかっていうとこから始まってるのばっかりなんですよ。信楽は信楽で良い土が取れて松の木があるから、あの登り窯で炊いて焼くから発展したんですよ。奈良の赤膚も白い良い土があったから、備前焼きも備前に田んぼの下に良い土があって、萩は萩の良い土と藁灰使うので発展して来たんですよ。各地で取れる地産地消みたいなもんで、特徴のある原料を使ってはるんですね。

これは(テスター)厚みが書いてあるんですよ。釉薬は厚みが結構重要なんですよ。濃度計という比重計があって、水に入れると比重0なんですけど、粉末が入ると沈み具合が変わってくるんですよ。

 

釣りの浮きみたいな感じで沈むんですか

そうですね。抵抗がある程沈みにくくなるんです。水やったらたぶん0のとこまで行くんですけど、濃度があったりすると沈まないんです。比重で釉薬の濃さで厚みが変わるんですよ。

 

それを控えておかないとわからなくなりますもんね。例えばこれと同じようなのを作って下さいといえば、これをみればよく似た物ができるということですね

そうですね。塩小さじ何杯っていうのをデータで残してあるのと一緒です。

 

土は関係あるんやろなとは思ってたけど、灰が関係あるとは

結構デリケートでしょ。篩と言って原料通すんですけど、ものによって違うんで、こうやって色々あるんですけど。これ灰とガラスとか色々な成分が10種類位入ってるんですけど、これを混ぜて土にかけるんですよ。